仕事のストレスで眠れない状態が続いている。職場でのハラスメントでうつっぽい。コロナで生活が不安定になり、メンタルの調子が悪い。
これらはいずれも、精神科にかかる症例だ。現代はかつてなく精神科が身近になっていて、今メンタルに問題がない人でも、いつ精神科を受診することになるかわからない。
それでいて、精神科や精神科医について、そして「こころ」の領域を治療することがどんなことなのかはあまり知られていない。だから、精神科を受診すること自体に抵抗感があったり、自分がどんな状態になったら精神科を受診すべきなのか、その際はどのようにクリニックを選べばいいのかよくわからないという人も多い。
信頼できる精神科医を選ぶ方法
『精神科医の本音』(益田裕介著、SBクリエイティブ刊)は、そんな精神科をめぐる疑問に答え、誤解を正していく。
たとえば、内科や外科の医師と同様、精神科医にも「腕のいい医師」とそうでない医師がいる。この違いはどんなところから生まれるのだろうか。
これにはさまざまな理由が考えられるが、その一つはシステム的な理由だ。本書では「精神科医療を専門に学んでいなくても、医師免許を持っていれば精神科医を名乗ることはできる」としている。日本では、歯科医師以外は好きな科の医師を名乗ることができ、そのため精神科医療に関する知識と経験が十分でなくても精神科医として開業しているケースが存在するのである。
もっとも、これは珍しいことではない。開業医は総合的な診療が求められるため、内科医が開業する際に皮膚科を標榜したりすることはままある。そしてこのこと自体に問題はない。
ただ、これはあくまでクリニックと医師の理屈であり、患者としては精神科医として経験を積んできた医師に診てもらいたいはずだ。本書では、そこを見分けるために病院やクリニックのホームページで医師のプロフィールを確認することを勧めている。プロフィールに「精神保健指定医」「精神科専門医」などの認定表記があれば、その医師は精神科医療について専門的に学んだ証だ。
精神科医の力量を分ける要素とは?
もちろん、精神科医療を専門的に学んだ医師にも、優劣はある。それを見極めるポイントとして、本書では「相手(患者)の感情に飲み込まれやすい医師」かどうかを挙げている。
精神科に限らず、自分の話へのリアクションが薄い医師に診察を受けると「このお医者さん、大丈夫かな」と不安になり、「うんうん」と相槌を打ちながら熱心に話を聞いてくれる医師は信頼できるように感じるのが患者というもの。ただ、患者を不快にさせない程度のコミュニケーション能力は必要なものの、精神科医には患者に共感するだけでなく、あえて淡々とした姿勢が求められることもあるという。
一見こちらの話に共感しながら聞いてくれているからといって「いい精神科医」とは限らない。過度に共感を強調するのは、精神科医として危険な兆候でもある。むしろ冷静に患者との距離を一定に保ちながら、ここぞというときに近づけることができるのが、優秀な精神科医の特徴なのだ。
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ずっと健康で病院にかからずにきた人ほど、歳をとって体に不調が出てきた時に、病院の選び方や受診の仕方がわからない。これは精神科にも同じことがいえる。本書はいざそうなった時に困らないための知識を授けてくれる。
これまであまり明らかにされてこなかった精神科と精神科医について。彼らの偽らざる本音は、とかくストレスが多くメンタルに負荷を感じやすい現代に生きる人にとって役立つはずだ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。