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天狗、はなまる…ブラックの代名詞・外食業界でも、なぜホワイト?高待遇に手厚い福利厚生

文=新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役
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天狗、はなまる…ブラックの代名詞・外食業界でも、なぜホワイト?高待遇に手厚い福利厚生の画像1和食れすとらん 天狗 ロードサイド店(「Wikipedia」より/Kici)
 外食業界は、私が就活生だった15年前からずっと、ブラック業界の代名詞的存在であり続けている。実際、2012年12月にクチコミ情報サイト「キャリコネ」調査により発表された、2014年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象とした「学生が絶対に就職したくない企業ランキング」においても、トップ10中に1位のモンテローザをはじめワタミ、ゼンショーホールディングス、王将フードサービスと4社がランクインしているくらいだ。

 なぜ外食業界はブラック化するのか。いろいろと理由はあるが、競合が激しく、結果的に「低価格」や「長い営業時間」でお客の利便性を追求せざるを得なくなり、そのしわ寄せが労働者の長時間労働や低賃金化につながってしまう構造が一番の問題だ。営業時間以外にも、食材の仕込みや清掃などの付帯的な業務時間は必要だし、アルバイトに残業をさせたり、深夜まで働かせたりすると時給も割高になるため、結果的に社員が長時間労働せざるを得なくなるという悪循環に陥り、疲弊している現場も多い。

「安くていつでも営業している」状態はユーザーにとってはありがたい限りだが、そこで働く側にとっては真逆の環境になる。しかも、景気回復の兆しが見えたことで、全体的な求人採用動向も好調になってきた。ブラックであることが最初からわかっている外食業界にあえて入ろうとする人材が少なくなれば、企業側にとっても死活問題だ。

パート・アルバイトへも、手当・休暇を充実させている企業

 そんな「業界総ブラック状態」な外食業界だが、中にはブラック度合が相対的に低い企業も存在している。しかも、意外と皆さんの身近にあったりするのだ。いくつかの事例をみてみよう。

【事例1 テンアライド(居酒屋「天狗」「テング酒場」を運営)】

 同社では創業した44年前から、「顧客満足の実現は、従業員満足から」を合言葉に、従業員への制度や待遇を徹底している。

 店長手当のほか、住宅手当(家賃半額補助)や持家手当を支給。持株制度や退職金制度も完備。アルバイトなら給与の週払いも選べ、経験を積めばアルバイトでも正社員並みの給与を得ている人もいるようだ。

 休暇は通常の有給に加え、産休、育休、介護休暇、そして夏冬各5日間の連続休暇制度がある。制度として存在しているだけではなく、社長自ら「休みをとれ」と促しており、実際に取得できているようだ。しかも、パートやアルバイトにまで有給は付与される。

 居酒屋を運営している企業ながら驚くのは、「全店舗、基本的に深夜営業ナシ。閉店は23時半」を徹底しているところ。しかも、アルバイトも加入できる労働組合まで存在しているのだ。

「朝まで働いて昼間に眠るのではなく、昼間の時間は自分のために使い、健康的な生活を送ってほしい」という思いから、店を開けていれば売上増間違いなしの新宿や池袋エリアの店でも、このルールに則って営業されているのが素晴らしい。渋谷では0時までの営業のようだが、それでも終電では帰れる時間だ。

「社員は家族」「ウチはブラックではない」と豪語する某企業よりもよほど卓越した環境だが、ことさらホワイトアピールをしない奥ゆかしさも同社の魅力かもしれない。口先だけで努力や姿勢を語るよりも、「実際に何をやっているか」というリアルを観察することが重要だ。

【事例2 ダイタンフード(立ち食いそば店「富士そば」を運営)】

 パート・アルバイトへの手厚い待遇といえば、同社も忘れてはいけない。アルバイトへのボーナスは年2回で、6月と12月に在籍していれば、入社してすぐであってもボーナス支給対象になる。

 さらには、有給休暇支給、退職金あり、定年退職後の再雇用、個人負担ナシの健康診断、週5日勤務の人には社会保険加入。これらはすべて「アルバイト対象」である。ブラック企業なら正社員でさえも到底得られない水準だ。

【事例3 はなまる(うどん店「はなまるうどん」を運営)】

 セルフ式讃岐うどんのチェーン店としては、今やトリドールの「丸亀製麺」のほうが店舗数でも(丸亀:690店、はなまる:321店)、売上高でも(丸亀:646億、はなまる:221億)勝っている状況ではあるが、はなまるは香川県下では最大店舗数を誇り、県内アンケートにおいて「よく行くうどん店」「大好きなうどん店」とも、2位以下を大きく引き離してトップランキングのブランドである。

 同社がホワイトな点としては、同業界にはありがちな24時間営業店がないこと、完全週休2日制をとり、夏冬の休みのほかに退職金制度もあることが挙げられる。また子供手当、子供の入学や結婚の祝い金といった手当がある上、転勤時は家族連れでもOKで、引越費用も全額企業持ち、さらに異動手当もあり、住居も企業が探し、金額を負担する。単身赴任の場合も帰省手当まで支給するという手厚さだ。ほかにも中途採用の面接時に、応募者の事情によっては企業側から出向いて面接することまで明記している。

 そして同社は、次世代育成支援対策推進法に基づいて「くるみんマーク」を取得している。これは、仕事と子育ての両立ができる環境整備を進め、いわゆるワーク・ライフ・バランスが実現できるように制度を整えている証しだ。実際、社員のライフステージごとの多様な働き方を可能とする勤務制度の整備、出産・育児関連制度の充実、全従業員へのワーク・ライフ・バランスに関する啓発活動などを継続的に行っている。

 それでいて、耳に聞こえのいいことばかりを言わないスタンスも好ましい。同社の新卒学生向けの企業説明会では、最初の一言が「弊社には入らないほうがいいですよ」から始まる。外食業界の仕事の厳しさと、同社独自のチャレンジを要求する厳しさを伝え、軽い気持ちやミスマッチで入社しないようにしているのだ。この姿勢こそ、「こんなはずじゃなかった……」という不本意な人を出さないために大事なことである。往々にして、良い部分だけを見て軽い気持ちで入った者が「あの企業はブラックだ……」と噂を流すのだから。

従業員を大切にする店を客が重用すれば、好循環が生まれる

 理論上や口先では「社員のために働きやすい環境を整えています」くらいのことはいくらでも言えるが、やはり言ったことを実現し、それを維持し続けることは格段に難しい。各社の取り組みは、社員を大切にしようという気持ちが形になって表れており、賞賛に値しよう。

 これらの特徴は、外食業界の中で比較したらホワイトに見えるものの、本来的には至極「できていて当たり前」レベルにもかかわらず、ほかの企業はできていないところが「外食業界=ブラック」と見られる原因なのだ。

 しかしながら、ブラックの代名詞である外食業界でも、これだけのことを実現できている企業があることは事実。従業員を大切にする企業なら、従業員側も企業を大切にするだろう。その気持ちや情報はすぐさま拡散し、「じゃあ、これから飲み会は天狗だな」「久々に、はなまるに行ってみるか」などという人を増やしていくのだ。そんな好循環が当たり前になってくれば、働き方のスタイルも今後、着実に変わっていくことだろう。
(文=新田 龍/ブラック企業アナリスト、ヴィベアータ代表取締役)

※本稿は、新田龍氏のメルマガ「ブログには書けない、大企業のブラックな実態」から抜粋したコンテンツです。

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

労働環境改善による企業価値向上支援、ビジネスと労務関連のこじれたトラブル解決支援、炎上予防とレピュテーション改善支援を手がける。労働問題・パワハラ・クビ・炎上トラブル解決の専門家。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。著書25冊。

Twitter:@nittaryo

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