私はない。2年前テレビ番組の取材を受けた時、その映像を見て、自分の声にショックを受けた。甲高くて、か細くて、飢え死に寸前のハムスターみたい。この声のせいで、仕事でも日常生活でも損をしている。例えば、上司に新企画の構想を話す時、本気度が伝わらないから軽くあしらわれてしまう。さらには、友達の話を真剣に聞きながら「大変だね」と心を込めて言ったつもりなのに、「あんたの言葉には心がこもっていない!」と怒らせてしまう。
これまで私は「声」や「話し方」は、直せないものとあきらめていた。しかし最近、永井千佳さんというボイストレーナーがユニークな指導をしていることを知った。
「プレゼンや交渉の場で相手に信頼してもらい説得するためには、低くて落ち着いた、よく通る声で話すことが必要なんです。男性なら福山雅治さん、玉木宏さんなどが良い見本です。女性なら『NHKニュースウオッチ9』のキャスター・井上あさひさん。みなさん低い声でしょう?」(永井さん)
永井さんによると、声を変えるためには横隔膜を鍛えるトレーニングが必要だという。
「横隔膜は肺の下にあるドーム型をした呼吸を司る筋肉。横隔膜を意識すると、まるでスイッチを入れたように、よく響く声が出るようになるのです」(同)
そこで、さっそくレッスンを見学させてもらうことにした。
●説得力を増す低い声の出し方
この日の生徒は、50代のIT企業社長Sさん。今回で5回目のレッスンだという。Sさんは経営者らしい颯爽とした男性だが、大勢の前では早口になるという悩みを持っていた。Sさんは言う。
「プレゼンのストーリーの組み立て方にはハウツーがある。でも、声そのものにはハウツーがない。だから、それに対しては何かやっていかなくてはならないと思っていました」
レッスンが始まった。まずは自分で短い原稿を書き、読み上げる様子をiPhoneで録画する。Sさんの話し声は平坦で「言いたいこと」が伝わってこない。
そこで、原稿の冒頭「その問題を解決する方法があるのです」という一節を重点的に練習する。ここは可能な限りゆっくりしたスピードで、区切るように発音すると効果的に聞こえるという。
一般の人は横隔膜を使う「低い声」を出したことがないので、横隔膜の使い方がわからない。ところが永井さんは、誰でも横隔膜を意識して使えるようになる画期的な策を持っていた。
それが「悪代官スペシャル」だ。時代劇で悪代官が越後屋と密談する場面を思い出してほしい。「んっんっんっんっん~。越後屋~、お前もワルよのう」と言いながらニタリと笑う、あの場面だ。
「まず顎を下げ、口を開けて、ゆっくり大きく息を吸います。横隔膜を意識して肋骨の下のおなかの部分に手を当てたまま、このセリフを言ってみてください」(永井さん)
Sさんはおなかに手を当てたまま、このセリフを繰り返す。すると不思議なことに、声がどんどん低くなりハリが出てきた。これが横隔膜を使えているということだろうか?
『DVD付 リーダーは低い声で話せ』 本書でご紹介するエグゼクティブ・ボイストレーニングは、ダイエットと違って、道具もいらなければ、面倒な運動も食事制限も必要ありません。他人に知られず、ひとりで行うことができます。一度トレーニングで身につけたよい声は、あなたを決して裏切ることはありません。リバウンドも後遺症もないのです。