いまだ活気の戻らない日本経済。
その理由についてはさまざまなことが言われているが、「終身雇用」「年功序列」「縦割り」といったことに代表される日本型の会社組織が、今の経済活動にそぐわなくなってきているというのは確かだろう。
上場企業6社の取締役を兼任し、慶応大学で教鞭をとる夏野剛氏は、著書『「当たり前」の戦略思考』(扶桑社/刊)の中で、多くの日本企業は、これまでの成長を支えてきたスタイルを捨てられずにきた結果、ビジネスで勝つために“当たり前”のように取るべき戦略が取れなくなってきていることを指摘している。
そのことが端的に表れている例として日本の家電業界を挙げているのだが、この業界の現状はすでに報道されているものよりもさらに悪いようだ。
■日本の家電に「イノベーション」がない理由
かつては世界のトップに君臨していた日本の家電メーカーだったが、今はその面影はない。聞こえてくるのは「撤退・削減・売却」といった暗いニュースばかりで、夏野氏も「崩壊の危機に瀕している」とまで言い切る。
ここまで凋落してしまった原因として、夏野氏は国内の家電メーカーの特徴的な「アンブレラ経営」を挙げている。
アンブレラ経営とは、企業という「大きな傘」の中に数多くの製品ラインが存在しているという経営スタイルだ。テレビや炊飯器、冷蔵庫などが事業ごとに縦割りになっていて、社長などの経営層が商品設計・開発にかかわることはほとんどない。
「質の高い製品」を「安く」作っていれば売れた高度経済成長期であれば、このスタイルはむしろ効率的でさえあったはずだ。
しかし、今は「掃除機」に「AI」を付けてヒットした「Roomba(ルンバ)」を見ればわかるように、異なったジャンルを横断して、技術やアイデアを組み合わせるイノベーションの時代である。アンブレラ経営による縦割りの組織ではこういう発想は出にくく、どうしても、「ひたすら大きくて高画質なテレビを追求する」というように、自分のジャンルを極める方向に進んでしまうのだ。
■「終身雇用」「新卒一括採用」が企業をダメにする
また、「終身雇用」「年功序列」「新卒一括採用」といった、古き良き日本のシステムが色濃く残っていることも、家電メーカーの特徴だ。
現在、国内のメーカーの社長は、新卒でそのメーカーに就職し、その同期の中だけで選抜された人間ばかりであり、「適材適所の選別の結果によって抜擢されたのか」「本当に経営能力があるのか」という点で疑わしいと夏野氏は言う。
何十年も同じ会社で働いて外のことを知らない経営者が、グローバル化の時代だからと急に世界的な広い視野を持つのは難しいだろう。経営者やマネジメント層を身内出身で固めて、外から人を入れないという、いかにも日本的なスタイルのせいで、国内の家電メーカーは、すっかり「井の中の蛙」状態になってしまっているのである。