「ソーラーパネル業界は発展途上。技術革新によって発電効率が飛躍的に向上しなければ、本格的な普及には至らないでしょう。しかし、ソーラーパネル や蓄電池などは、情報科学におけるイノベーションとは異なり、地道に実験を積み重ねていくもの。一朝一夕に変化が起こるわけではありません。現在の状況を 見ると、効率のいいソーラーパネルが開発されるのはまだ当分先のようです」(クロサカ氏) SBエナジーでは、北海道でソーラーパネルの実験施設を稼働さ せ実験結果も公開。その技術革新を推し進めようとしているが……。
「これまでも、ソフトバンクは自らイノベーションを起こすのではなく、例えば、01年頃ブロードバンド事業に着手したときなども、イノベーションが 起きたらいち早く察知して、資本を投入する方法を取ってきました。来るべき太陽光パネルのイノベーションに目をつけて、今はとりあえず投資を始めたという 状態なのではないでしょうか」(同)
だが、太陽光発電を普及させ、脱原発を図るという孫社長の目標に産業界は距離を取ったままだ。ソフトバンクも加入する「日本経済団体連合会(日本 経団連)」は、一貫して原発推進の立場を保持している。日本最大の経済団体であり、財界の代名詞といえる同団体。彼らの確約を取り付けることができれば自 然エネルギーの推進、脱原発の方針は勢いを増すはずだが、内部で孫社長の旗色は悪い。11年11月には理事会で、孫社長自ら脱原発の演説をぶったものの、 総スカンを食らってしまう事態となった。『財界の正体』(講談社現代新書)の著者・川北隆雄氏は、「老舗企業が主流の経団連の中で、新興企業のソフトバン ク・孫社長は傍流の存在。影響力は、あまり強くありません。また、日本経団連に加盟する企業は、製造業企業が中心です。彼らは工場を稼働するために、安定 的な電力を期待している。不安定な自然エネルギーは敬遠される傾向にあるんです」と解説する。
孫氏の主張は、日本経済の中では異端である一方、同じく新興のIT企業である楽天の三木谷浩史社長は、エネルギー政策の不一致を理由に、11年6 月に同会を離脱している。だが、経団連は、国の政策にも強い影響力を及ぼす存在だ。孫社長が掲げた目標を達成するには、彼らの考え方を変える必要があるだろう。
太陽光ビジネスは産声を上げたばかり
常識外れの方針であるからこそ、さまざまな懸念が出る太陽光ビジネス。こうした疑問について、SBエナジーはどのように考えているのか?
「政策面では、ソフトバンクが事務局として参加している『自然エネルギー協議会』『指定都市 自然エネルギー協議会』などを通じて、自然エネルギーの普及につながる政策提言を行っています。また、太陽光パネルの研究でも、国内外のメーカー10社の 太陽光パネルを並べた試験場を設置し、発電特性や積雪対策などの研究を実施。これらの研究結果をもとにメーカーと連携しながら、さまざまな気象条件や地域 特性に最適な太陽光発電施設の建設を目指しています」(SBエナジー広報担当者)
結局のところ、現状では研究と提言をする程度の段階にしかない太陽光ビジネス。そんな状況下にあって、ソフトバンクによる太陽光ビジネスの動向を注視する3人は、いずれも口を揃えて「これからの動向に期待している」と一定の評価を見せた。
「もちろん、太陽光発電ビジネスへの参入は、孫社長のパフォーマンスとしての側面もあります。同社からすればIRR(内部収益率)の悪くない事業で もあり、企業イメージ向上のためにテレビCMに何十億円もつぎ込むライバル企業に比べれば、うまい宣伝といえますね」(クロサカ氏)
これまでも自らの先見の明で、数々の投資を行ってきた孫社長。こうした先行投資が単なるパフォーマンスで終わるのか、先行きは不透明だが、果たして……?
(取材・文/萩原雄太 かもめマシーン)
<目次>
(1)なぜ、いまソフトバンクと孫正義なのか?
(2)ソフトバンクのサービスとプロダクトの戦略
(4)文化人・財界人が語る孫正義の功罪
(5)ソフトバンク社員覆面座談会