「TBSの『報道特集』という番組に顔を出して出演し、自らが違法な多重派遣をしていたことを認めた経営者もいました」(同)
そうして中間搾取された資金が政治家や地元有力者にも配分され、原発推進の体制が作られてきた。では、どのように彼らはかかわってきたのだろうか?
原発は稼働までに20年 暗躍する地元の有力者
10年2月に市民運動の団体「いわき市原発の安全性を求める会」が、違法な中間搾取をあらため、作業員の社会保険加入を徹底させるよう、東電に申し入れている。しかし、東電側は「下請け会社の問題だ」として、実態調査すら行わなかった。当然のように、政府からの指導もない。
各誌で原子力ムラの内情を告発してきたジャーナリストの田中稔氏は、こうした構造を作り上げるためには、有力な”フィクサー”の存在が不可欠だと語る。
「原発建設は、構想から着工までおよそ20年かかります。その間に、電力会社が土地を買い取るのですが、その際に多くの根回しが必要になるし、また暴力団が先回りして土地を押さえている例もある。
そこで、地域の首長を手練手管で篭絡し、水面下で地権者と交渉を行い、また豊富な資金力で露払いをすることができるような”フィクサー”が存在しています。さまざまな勢力とのパイプがあり、資金力もある有力者がハブとなり、原子力ムラの利権構造をより強固なものにしてきたのです」
田中氏が追ってきた人物は、電力会社との随意契約で、核燃料サイクル施設などの警備も請け負っているという。彼らは原子力ムラの構造に守られ、マスコミなどからの告発は、豊富な資金力を背景にしたスラップで封じるなど、表に出ることはほとんどない。電力会社から多額のスポンサー料を受け取ってきたマスメディアは、こうした問題を伝えることに及び腰のままだ。
原発作業をめぐる現場は、まさに治外法権状態。前出の渡辺氏は、特に危険な作業、例えば、使用済み核燃料プールにカメラや工具を落としてしまい、それを拾い上げるような場合は「外国人労働者に潜水させる」など、人権無視の横暴も行われてきたという。
「下請け会社元社長に話を聞いたところ、”潜水作業は1度で100~300ミリシーベルト被ばくするため、日本人にはやらせることができない”とのこと。こうした信じがたいことが、平然と行われているのです」(前出・渡辺氏)
一方で現在、原子炉メーカーである日立グループは、現地拠点に「チームワークで頑張ろう! 原子力事業発展のために! 信頼を取り戻そう」という横断幕を掲げている。原子力事業にしがみつこうとする本音が透けて見え、原発利権はいまだに巨大であることがうかがえる。
「『我々には原子力を推進してきた責任がある。若い人に任せず、命懸けで作業に当たってきた』と語る熟練労働者など、地域住民への責任感や使命感で、事故の収束作業に取り組んでいる人も少なくありません。対して、利益追求のために”頑張ろう”と呼びかける原子炉メーカー。その非人間性には、閉口するしかありません」(同)