ロンドン・オリンピック直前のイギリスを揺るがしている「バークレイズ銀行の金利不正操作事件」は、同行のダイヤモンドCEOの辞任ではおさまらず、「イングランド銀行の指示でやった」という証言が飛び出して疑惑の目は中央銀行の幹部に、さらには当時の首相ブラウン氏の周辺にも向けられて、金融界から政界にも飛び火しそうになっている。
バークレイズが操作した金利は「LIBOR」(ライボー/ロンドン銀行間取引金利)と呼ばれるもので、短期金利の国際的な指標になっている。例えば、海外の天然ガス開発プロジェクトに日本の銀行がプロジェクトファイナンスで資金を貸し付けるような時、融資利率を「LIBOR±何%」というように、LIBORを基準に決めたりしている。
大型案件だと、融資条件がわずかに変わっただけで、収支計画、さらには全体計画の見直しも余儀なくされることがある。ということは、不正操作でLIBORの利率が0.01%動いただけで、世界のどこかの国で大規模プロジェクトの計画が手直しされ、多くの失業者が生まれて、人々の生活を狂わせてしまっていた可能性があるのだ。
調査方法は「ただ聞くだけ」
そんな、人の運命を左右しかねない国際金融の重要指標LIBORは、どうやって決まるのか?
すでに報じられているように、決めるのはイギリス銀行協会である。協会がイギリスにある大手16行にその日の短期金利をヒアリングし、金利が高い順番に並べて、オリンピックの採点競技のように上位4行と下位4行を切り捨てて、残った8行の金利平均を算出する。これが、その日のLIBORとして毎日午前11時に発表されている。
係員が銀行に出向くわけでも、コンピュータを操作して調べるわけでもない。「ヒアリング」するのだ。そう、ただ聞くだけなのだ。
よって、16行のどこかが短期金利の数字をごまかして伝えようとしたら、簡単にできてしまう。イギリス銀行協会は、たとえそれがウソであっても、聞いた数字に基づきLIBORを算出、発表し、それを世界中の銀行が利用するのである。
金利操作はバークレイズにとって、赤子の手をひねるように簡単にできることだった。
なぜ、そんなユルいシステムなのかというと、イギリスを代表する大手銀行16行は、金融界でそこまで信用されているからである。「英国紳士はウソをつかない」「ましてや金融マンはウソをつかない」ことを前提に、イギリス銀行協会はヒアリングで聞いたことを全面的に信用する。それがロンドンの金融街「シティ」の伝統のルールなのだ。
バークレイズへの厳しい処分
それを裏切ったバークレイズは、非常に罪深い。イギリスでは「ウソをついてルールを悪用した紳士」には、最悪の不名誉が待っている。おそらくイギリス銀行協会は、バークレイズに厳しい処分を下すことだろう。