経団連あたりがひそかに「今度の日銀短観の調査は『悪い』と答えよう」と音頭をとって、大企業間で示し合わせたら、200〜300社程度の協力でも数字は操作できてしまう。
賃上げ阻止にも利用できる
そうやって算出された日銀短観の悪い数字を武器にすれば、例えば春闘前なら「景気が悪いからベアなしだ、定期昇給なしだ、賃下げだ」と経営側は労働組合に強く主張できる。あるいは、「政府の失政のせいで景気が悪い」と触れ回って、国民世論を誘導できるかもしれない。野党に内閣不信任案を提出するようけしかけたら、うまくいけば気に入らない内閣を倒せたり、解散・総選挙に追い込めるかもしれない。
LIBORと同じヒアリング方式で、調査対象の数が少なく、設問が三者択一でしかも単純な引き算で集計するから、そんな数字の操作による謀略の疑いまで抱かせてしまう。
日銀は「海外で『TANKAN』の名称で広く知られています」と自慢しているが、せめて四半期決算の結果や当期業績予想の修正などと照らし合わせて、食い違いがひどければその企業を計算対象から除外することぐらい、できないのだろうか。
もし日銀が、「大企業はみんな紳士だから信用している」と思っているとしたら、あまりにもおめでたすぎる。
景気ウォッチャー調査も偏重指標
疑惑の経済指標はまだある。内閣府が毎月調査・発表している「景気ウォッチャー調査」だ。その調査回答者は紳士ではなく、庶民である。
具体的には、百貨店売場主任・担当者が最も多く6.0%、スーパー店長・店員5.8%、一般小売店経営者・店員5.5%が最も多く、4%台にはコンビニエンスストア担当・店長、乗用車・自動車備品販売店経営者・店員、通信会社社員が並ぶ。よく引き合いに出されるタクシー運転手は2.1%しかない。39.6%を占めている小売業に少々偏重気味である。
家電量販店業界を見ればわかるように、小売業は企業間の優勝劣敗が激しい。また、同じ企業でも店舗によって様相がガラリと変わったりする。春先の天国から一転、大失速を喫しているユニクロ(ファーストリテイリング)のように、浮き沈みが激しい会社もある。
しかも、どんな会社にも日の当たらない部署があり、冷や飯を食わされている社員がいる。会社の業績が絶好調でも、そんな社員に「景気はどう?」と聞いたら、「最悪」と答えるだろう。会社のことではなく、自分のことを答えるのだ。
そんな人たちも含めて内閣府はランダムにヒアリングして、果たして景気を正確につかめると思っているのだろうか?