ところで、「聞いた数字をそのまま信用する」と聞いて、何か思い当たらないだろうか?
そう、ゴルフのスコア申告だ。プロのトーナメントでも、ホールアウトしたらスコアは自分で申告しに行く。それは「紳士淑女はウソをつかない」ことが前提の、イギリスの伝統なのである。あの国の名門ゴルフコースでは、スコアのごまかしがひどいと他のメンバーの指摘で懲罰委員会にかけられ、メンバーシップを剥奪された上、永久追放(出入り禁止)になることもある。そうなったらゴルファーにとって最悪の不名誉だ。
日銀短観もデタラメ?
「聞いたことをそのまま信用する」ことで経済活動で重要な数字が算出されるのは、イギリスに限った話ではない。この日本にも、ヒアリングだけで決める経済指標は存在する。
「日銀短観」である。
日本銀行が3カ月に1度、調査・発表している「全国企業短期経済観測調査」(略称:日銀短観)の「日銀短観DI(業況判断DI)」には6種類あるが、ニュースで大きく取り上げられるのは、そのうち「大企業製造業業況DI」である。その決め方は、製造業の大企業に調査票を配って、今の景気が「良い」「さほど良くない」「悪い」の3つから選んでもらい、集計は「良い」の回答の割合(%)から「悪い」の回答の割合を引く。答えが+になり%の数字が大きくなればなるほど景気がいいという、シンプルなものである。
日銀短観(とはいっても大企業製造業業況DIだけだが)は、発表直後の株価や為替相場に影響を及ぼす。国内総生産(GDP)、景気動向指数、鉱工業生産指数、消費者物価指数、完全失業率、有効求人倍率などと並ぶ日本の重要な経済指標になっている。
だが、調査対象の数が少ない上に、調査・集計方法がシンプルすぎる。
例えば、一般世帯が対象の「労働力調査」もアンケートによるヒアリング方式だが、調査票が回ってきた時、会社に勤めているのに「失業中」に丸をつけたウソつきがいても、約4万分の1で完全失業率への影響は微弱である。調査される人同士の横のつながりもない。
しかし日銀短観の大企業製造業業況DIでは、今年6月調査分の有効回答数は1163社しかない。加えて、大企業同士は、業界団体や経済団体を通じて横のつながりが密にある。