アップル参入で注目! グーグルが牛耳るデジタル地図業界
(右)「週刊ダイヤモンド(11/17号)
経済産業省が2008年にまとめた「地理空間情報サービス産業の将来ビジョン」によると、デジタル地理空間情報(デジタル地図・位置情報)の国内市場規模はなんと13年に10兆円に達する見込みだという。しかも、08年の試算ではスマートフォンを入れていないため、現状のデジタル地図市場はもっと大きく、位置情報を活用する店舗など周辺産業を入れると、50兆円規模との試算もあるという。
そもそもその昔、地図データは自治体など限られたユーザーが高額で入手するものでしかなかった。位置情報の取得に必要なGPS(衛星利用測位システム)チップは1970年代にはあまりにも巨大で船舶にしか搭載できなかったほどだ。地図データを取り扱う専用ソフトは高額で高いスキルも求められたが、いまや、こうした地図コンテンツ、GPS、ソフトに関してのハードルが断然低くなったのだ。
デジタル地図の性能アップに必須の個人情報
デジタル地図と言えばいまやグーグルマップだ。グーグルは04年10月にオーストラリアの企業の技術をベースにグーグルマップを形にし、05年にサービスを開始。同じ04年10月には世界中の衛星写真を閲覧できる「グーグルアース」のもととなる技術を持った米国企業も買収し、1年後にはグーグルアースのサービスを開始している。
その後わずか8年で、グーグルはデジタル地図の業界で確固たる地位を築きあげた。今では行政機関もグーグル頼みだ。静岡県が運用する「統合基盤情報システム」では、東海大地震における予想津波到達マップ、避難所マップなどの地理情報を広く公開しているが、ここで使用されているのはグーグルマップだ。以前は県の自前のサーバで運用していたが、高いばかりで遅いサーバに見切りをつけ、データはすべてグーグルのサーバに預けた。自らが被災した際のリスク分散の意味もあって、クラウドで使えるグーグルにしたのだと静岡県の危機管理部危機報道監は話す。
また、日立建機では、世界中の建機の稼働状況を地図上で把握するシステムを運用しているが、地図データをAPI(アプリケーションとして自社システムに組み込む)で提供してもらう企業として、世界中をカバーしていつつ情報更新も頻繁なグーグルマップに白羽の矢が立てたのだという。もともとはゼンリンのCD—ROMに入った地図データで対応しようとしたが、日本中をカバーするだけで億単位になり、コスト的に合わない。一方のグーグルは「年間のページビューでいくら」という計算で、世界をカバーしながらも年間2000万円程度で済んでいるのだという。
地図はゼロから作るものではない。デジタル地図が消費者に届くまでに大きく4段階に分かれる。
まず1段階目で、国土地理院や各地方自治体が基盤地図を作成する。この基盤地図に独自の調査や測量結果を付加して地図を作るのが、地図調整会社だ。デジタル地図の調整会社は、国内では住宅地図に強いゼンリン、トヨタ自動車子会社のトヨタマップマスター、観光情報に強い昭文社、パイオニア子会社で道路地図に強いインクリメントPの4社しかない。それぞれ各社の強みに合わせた情報が地図に記載されていく。これが2段階目だ。
この4社が作成したデジタル地図を供給されるのがグーグルやアップルに代表されるプラットフォーム会社だ。3段階目に当たるプラットフォーム会社はデジタル地図を地図調整会社から購入し、自社のOSやアプリケーションの上に再構築する。地図調整会社から提供されるデータは膨大な情報があり、どの情報を選択するかをプラットフォーム会社が判断する。今回、騒動となったアップル製の地図に間違いだらけの不具合が生じたのは、パイオニア子会社で道路地図に強いインクリメントPなどから提供を受けたデジタル地図に対し、アップル側に「何を強調して何を表示するか」という編集作業が不足していたことが大きな原因だという。
最後の段階として、このデジタル地図を使い、独自の位置情報サービスやアプリを提供するソリューション会社がある。たとえば、経路検索のナビタイムや店舗情報検索のぐるなびなどがこのソリューション会社にあたる。
さらに地図情報はリアルタイムで集積、更新され、“ビッグデータ”となる。 たとえば、グーグルマップには「交通状況」という渋滞情報の表示機能がある。道路が「低速」から「高速」まで4色に塗り分けられ、リアルタイムの渋滞情報を提供してくれるのだが、実はこれは街を移動しているアンドロイド(グーグルの携帯電話向けプラットフォーム)のスマートフォンを使っているユーザーのうち、「マイ・ロケーション(現在地)」機能を有効にしているユーザーの位置情報と速度データをグーグルが常に収集し、計算処理、リアルタイムの交通情報を表示できるようになっているのだ。
こうしたグーグルの地図ビジネスの進化を見て、乗り遅れまいとアップルもデジタル地図に参入をしたのだろうが、アップルでさえも失敗をせざるをえないのが、地図の世界の奥深さだ。
地図調整会社のゼンリンの高山善司社長はインタビューに答え、「当社はこれまで、顧客の言う仕様通りの地図を作るということを得意としてきた。しかし、それだけでは足りなくて、『あなたの顔、あるいはプロフィールを見るだけで、あなたが今、最も必要としている最適な地図を作ります』という発想が必要になる」と語っている。アップルが参入し、デジタル地図戦争ははじまったばかりだ。
今日でクビ! にされない労働者の知恵とは!?
「週刊東洋経済 11/17号」の大特集は『人ごとではない。明日は我が身の解雇・失業』だ。半導体大手のルネサスエレクトロニクス、電機大手のNEC、シャープ……大手上場企業の希望・早期退職者募集は10月末までに1万6000人を超えた。すでに11年の倍で、リーマンショック後の09年を超える可能性もあるという。これまで日本は労働規制が厳しく、正社員を辞めることは難しいとされてきた大手も、中小企業と同様に簡単にクビ切りをする時代に突入したのだ。
かつて労働規制には「整理解雇の4要件」があった。(1)解雇に踏み切る必要があるほど経営が厳しいか、(2)解雇を回避するためのあらゆる努力をしたか、(3)解雇の対象者を公正に選んだか、(4)社員に十分な説明をしたか。これらはどれか1つでも欠けてはいけない「4要件」と呼ばれてきたが、「4つすべてを満たしていなくても、総合的に考えて必要性が認められれば解雇は有効」という判決が出始めてからは「4要素」という呼び方の、ゆるやかな制限に変わってしまった。
こうした企業側に有利な環境で、大企業で頻発しているのは激しい退職勧奨だ。個別に呼び出し「君にやってもらう仕事はない」などという面談を繰り返し、希望退職に応募させるようにする。これまでは「繰り返し執拗に迫る」「脅迫する」といった強要は違法とされてきたが、08年の日本IBMでの退職強要事件で「退職を拒否しても勧奨を中断する必要はない」という判決が出た(東京地裁原告敗訴、東京高裁控訴棄却)ために、企業側が激しい退職勧奨に乗り出したのだという。
退職勧奨の次に待っているのが「配置転換」だ。たとえば、11年7月にグループで1600人の希望退職者を募ったリコーでは、個別の退職勧奨に応じなかった40代の技術者を物流倉庫に出向させたこともあったという。現在、民事裁判中だ。
また、問答無用の「ロックアウト型普通解雇」も多い。上司にミーティングだと呼び出されると、会議室には人事担当者がいて、解雇予告通知を読み上げられる。「月末付の解雇だが、明日以降は出社禁止、今日も私物を持って30分以内に退社すること。もし、2日以内に自己都合退職をすれば解雇は撤回し、割増退職金や再就職支援会社のサポートを提供する」と告げられ、人事担当者が監視するなか、私物整理もそこそこに、追い出されるように退社する……。08年のリーマンショック直後に、外資系金融機関が契約社員にしたような即座の締め出し(ロックアウト)というヒドい仕打ちが、今や日常的に日本の大企業で行なわれているのだ。
もちろん、大企業側は万全の対策だ。顧問先の法律事務所や特定社会保険労務士に相談し、揉めて裁判となっても十分に戦えるだけの準備をした上での退職パッケージになっているのだ。なかには1人辞めたら何万円といった出来高契約をコンサルティング会社と結ぶケースもあるという。
こうなると対象者になってしまった労働者は、裁判に辞さずと徹底抗戦するか退職金の上積みなどの条件闘争に入るしかない。条件面で注意したいのは、辞める時期だ。あと一カ月、あと1日待てば在籍年数が増えて、通常の退職金の支給額がアップするケースや、雇用保険の加入期間で失業給付の適用条件も変わってくるケースもあるからだ。
一方で、すでに、中小企業ではより解雇の「自由化」が進んでいる。経営者が労働法に無知なこともあって、「有給を取得した」「社会保険への加入を申し出た」とたんに解雇を通告されたり、「店長から『オレ的にダメだ』という理由で解雇された」「協調性がないといった理由で解雇された」など、裁判所でもとうてい認められない解雇事例が頻発しているという。
ただし、こういった理不尽な場合には会社を訴えると思わぬ“得”をすることがあるという。まず、解雇された社員が不当解雇だと訴えて、賃金仮払いの仮処分を申請する。判決が下るまでは平均1年間。1年分の給料が会社から仮払いされることになる。中小企業は乱暴な解雇をしているので、裁判では企業側が負けて、判決で解雇してからの給料の支払いを命じられるが、その際、仮払いした1年分の給料は控除されない。つまり、裁判で勝った労働者側は「賃金の二重払い」を受けることができるのだという。
来年3月に中小企業金融円滑化法が期限切れを迎える。この円滑化法は金融機関が中小企業から借金に対する返済期限延長や金利減免といった条件変更の要請があった場合、それに応じる義務を金融機関に課したものだ。円滑化法を利用した企業は推定30万~40万社。いわば中小企業にとって「頼みの綱」的な法律だった。2度延長されたが今回は延長されず、中小企業の事業環境が厳しくなることが予想される。すでに、金融機関の引き締めで中小企業の倒産件数も増え始めている。
今後、ますます解雇・失業が増えかねない。労働者にとっては今から対策を準備しておきたいものだ。
(文=松井克明/CFP)