安倍政権でインフレ目標2%の保身に走った日銀の豹変…消費増税見送りも?
しかし、果たしてそうだろうか?
この2カ月ほどの間に、日本経済を取り巻く環境は一変した。だが、その先行きに大きな影響力を持つプレーヤーの動きをみていると、心許ないの一言につきる。なんの定見もないのが一目瞭然だからだ。
●安倍政権を生んだメディア
その第一はジャーナリズム。昨年秋くらいまで大新聞はこぞって社説で「決められる政治」を求め続けた。その結果、野田佳彦前民主党政権が消費税増税法案を成立させ、「税と社会保障の一体改革」に道筋をつけ、解散総選挙に踏み切った。そして、自民党・公明党が圧勝、衆院で自公が3分の2超となり、まさに「決められる政治」が事実上実現した。
大新聞は「決められる政治」の実現を大歓迎するような社説を掲載するかと思っていたら、そんな社説はどこでも読むことはできなかった。そして、もはや「税と社会保障の一体改革」など、ほとんど言及もされなくなっている。乗せられて「政治を前へ進めよう」などと訴えて選挙戦を戦った野田前首相はピエロのようなものだ。
しかし、「決められる政治」というのはナンセンス極まりない主張だ。「財政の崖」問題など米国の例を引き合いに出すまでもなく、民主主義政治体制を維持しようとする以上、国論が二分しているような案件ではそう簡単に決められず、妥協の産物である結論に至るのにも大揉めに揉めるのが常だ。
「決められる政治」を実現したければ、まず中国のような一党独裁体制にすることだ。それができなければ、「自民党一党独裁」時代に戻る以外に道はない。小選挙区制という問題はあるにせよ、国民はマスコミの世論誘導によって次善の策を選んだのだ。
「決められる政治」の実現により、日本経済の今後はどうなるか、まだ見通せないが、一層悪くするような結果になれば、大新聞の罪は重いと言わざるを得ない。堕落して久しいジャーナリズムに文句を言っても始まらないが、多分、頬っ被りするだけだろう。実際、すでにそうなっている。
●保身に走った日銀
次が日銀である。総選挙の前まではその独立性を主張し、自民党の主張する大胆な金融緩和に消極的だった。それなのに、自公が圧勝すると豹変し、昨日1月22日の政策決定会合で事実上のインフレ目標(消費者物価上昇)を1%から2%にすることを決めた。
自民党の主張と軌を一にして、円安、株高が始まった。最大の要因は欧州危機が峠を越え、米国の「財政の崖」回避の可能性が高まったためだが、それならなおのこと、日銀は堂々と自説に拘らなければなるまい。しかし、そうならず豹変してしまった。保身以外の何ものでもあるまい。
●変節した財務省
最後は財務省である。財務省は金庫番として財政健全化の最後の砦でなければならないが、自公の安倍晋三政権に全面降伏だ。今年春の日銀総裁人事に絡み、麻生太郎副総理・財務金融相、菅義偉官房長官は「財務官僚OBを排除しない」と明言、リップサービスに努めている。人参をぶら下げられたら、いとも簡単に変節してしまう。
最大の「省益」である日銀総裁ポスト奪還は財務官僚の悲願である。一縷の望みをかけ、安倍政権の方針を唯々諾々として飲み続けるのは間違いない。
安倍政権が照準を置いているのは今年夏の参院選挙での勝利で、完全な「決められる政治」の実現(現在は自公は参院で過半数を持っていない)である。そのために、5月あたりから国民が景気の回復を実感できるようにしたい。そのためなら、なんでもありなのだ。