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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第18回

大手新聞社長の“バレバレ”不倫話を肴に盛り上がる新聞社幹部たちの一夜

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「Wikipedia」より
【前回までのあらすじ】
ーー巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、以前から合併の話を持ちかけていた。そして基本合意目前の段階にまで来たある日、割烹「美松」で、村尾、両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)との密談を終えた松野は、一足早く店を出て、3人が残された格好となったーー。

 大都新聞社長の松野弥介が割烹「美松」を出たのは、午後9時過ぎだった。

 「美松」に残ったのは、合併交渉に同席した大都取締役編集局長の北川常夫、そして、日亜新聞側の2人、社長の村尾倫郎、取締役編集局長の小山成雄だった。よせ鍋の仕上げ、雑炊を食べて帰ることになったのだが、用意するはずの老女将が松野を送りに出て戻らなかった。小山がお湯割りを少し飲むと、村尾を見ながら切り出した。

 「松野さん、『野暮用』って言っていましたけど、何ですかね……」
 「どこに行くか、誤魔化しただけだろ。きっとカラオケだよ。どうなんだい?」

 村尾が、小山の対面に座っている北川を見つめた。

 「明日、自由党の石山久雄幹事長の朝食会で、社長はすぐそこのリバーサイドホテルに泊まりです。数日前に『石山さんに何か聞くことはないか』と聞いてきましたから……」
 「それこそ野暮だけど、聞いてもらったの?」

 小山が笑いながら嘴を挟んだ。

 「いや、社長に聞いてもらうことはないさ。わずらわしいだけだからね。それでも、『いつも聞くことないか』と言ってくるんだ。それはお互い様じゃないの?」

 口元をほころばせた北川の返答は、村尾をムッとした表情にさせた。

 「おいおい、北川君、何を言う。俺は松野先輩のようなことはしたことないぞ」

 村尾は社交的な松野と正反対な性格だった。「引き籠り社長」そのもので、パーティーには必要最小限しか出席しない。その話は業界でも有名で、北川の耳にも入っていた。

 「村尾社長、すいません。うちと全然違う、とわかっています。勘弁してください」

●「一人カラオケ」が好きな大手新聞社長

 村尾が苦笑するのを見て、北川が続けた。

 「松野の行き先の話に戻りますけど、村尾さんがここで会った時はどうでした?」
 「俺はいつもタクシーを呼んでもらったが、先輩は社長車の時もあれば、そうでない時もあったような気がする。社長車の時は逗子の自宅に帰ったんじゃないかな」
 「社長車じゃない時は、どうだったんですか」
 「一緒のところを見られるのはまずいので、俺は先にタクシーに乗って出てしまう。先輩がどうしたのか、よく知らないんだな」
 「社長車を使わない時は、ホテルに泊まる時です。でも、時間が早ければカラオケに一人で行くこともあるでしょうけど……」
 「すると、今日もカラオケじゃないのかい?」
 「それはわかりません。いつもカラオケに行くわけじゃありませんから……」

 北川がそう答えた時、部屋の格子戸が開いた。老女将が雑炊を作るための、ご飯と生卵、茶碗3つを持って入ってきた。村尾は構わず、カラオケの話題を続けた。

 「先輩は、どこでカラオケの練習をするんだい?」
 「村尾さん、知らないんですか。行ったことないんですか?」
 「そうだよ。俺はカラオケやらないから、松野さんに誘われたことはないさ」
 「銀座日航ホテル前のビルに、行きつけのクラブがあるんです。新しい演歌を覚える時は、そこで練習します。歌いこなせるようになると、部下やお客さんを連れて繰り出すんです」

 怪訝な顔をしている老女将を見て、小山が割って入った。

 「女将さんに聞いてみましょうよ」
 「え、何ですか?」

 老女将は卓袱台の鍋にご飯を入れ、コンロに火をつけながら、聞き返した。

 「松野社長を見送ったんでしょ。どこに行きました?」
 「わかりません。私は水天宮通りに出るマーさん見送っただけですからね」

 老女将は鍋が少し温かくなるのを待って、生卵を割って鍋に落とした。

 「通りに出るまで、見送ったんですか」

 小山がさらに突っ込むと、老女将は「そうですよ。マーさんは手を挙げて、タクシーを止めていました。それを見て、私は戻って雑炊の用意をしてきたんです」と説明しながら、鍋に蓋をした。

 「沸騰したら、出来上がり。私は下がりますから、みなさんで食べてください」
 「わかった。食べ終わったら、呼ぶよ」

●“3つのN”と“2つのS”

 村尾が答えると、老女将は部屋を出た。格子戸が閉まる音を聞いて、小山が切り出した。

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