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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第26回

損失“飛ばし”、不当便宜供与…大手新聞社、合併で次々浮き彫りになる不祥事

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「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
--巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、以前から合併の話を持ちかけていた。そして基本合意目前の段階にまで来たある日、割烹「美松」で、村尾、両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)との密談が行われ、終了後、松野と村尾はそれぞれの愛人の元へ帰っていった。そして、数日後の4人による第2回目会談の前、先に松野と落ち合った村尾は、松野に日亜の子会社が財テクで200億円もの損失を出していたことを明かした--。
 
 日亜新聞社長の村尾倫郎はデリバティブで失敗した子会社・日亜経済出版社の名前を明らかにしたうえで、同社を設立した経緯を説明した。

 昭和45年(1970年)に日々新聞社と亜細亜経済新聞社が合併して日亜新聞社が発足した際、亜細亜の出版部門を子会社として独立させた。それが日亜経済出版社だ。

 合併前の旧亜細亜の出版部門は経済書の出版では定評があり、経済書専業の出版社の最大手クラスの売り上げ規模を誇っていた。このため、合併後に社名から「経済」が外れることもあり、独立させたのだが、旧日々の出版部門は合併後も「日亜新聞社出版局」として残った。一般書は本体、経済書は日亜経済出版という棲み分けをしている。しかし、ここ10年の出版不況で、お互いの領域を侵食するようになり、関係がぎくしゃくし始めた。日亜経済出版は子会社という負い目もあり、少しでも利益を増やそうと、財テクに走った。

「経済書で一、二を争う大手出版社が財テクで失敗? 洒落にもならんな。どうしたんだ」

 大都新聞社長の松野弥介は村尾を詰るような調子で質した。

「そういわれると、ぐうの音も出ませんが、仕組み債でやられたんです」
「仕組み債? リーマンショック後に、日本でも自治体や有名大学などが大損したやつだな」
「そうです。でも、経済部出身の先輩と違って、僕は政治部と経済部を行ったり来たりしただけですから、複雑な金融商品をちゃんと説明できるかどうかわかりませんが……」

 村尾はそう前置きして、うろ覚えの報告をもとに説明した。

 仕組み債は「債券」という名称がついているが、企業や自治体などが資金調達のために発行する債券とは違う。投資銀行が、金利スワップ取引や株式オプション取引などデリバティブの金融技術を駆使して開発した金融商品だ。つまり、投資家の希望するように、元利払いのお金の流れをつくり上げる(仕組む)債券なのだ。ハイリスク・ハイリターンな商品なうえ、中途換金も難しいのが普通だ。このため、想定外のことが起き、相場が激変すると、投資元本を上回る損失を被ることすらある。

 村尾がここまで説明すると、イラついた松野が遮った。

「仕組み債の説明はもういい。損失はどう処理しているんだ。それが聞きたいんだ」
「いやすいません。釈迦に説法のようなことをして……」

 村尾は座布団を外し、土下座しようとした。村尾の得意技で、常套手段だった。男も女もそこまでされると、大抵、悪い気はしない。土下座で難局を乗り切れると思っても、普通はできないが、いとも簡単にやってのける。それが村尾がドンファンたる所以でもあった。

「村尾君、そんなことするな。もういいから、どうしたのか、話せ」
「報告があったのが、リーマンショックの約3カ月後の年末でした。なんとかインサイダー事件で引責を免れたばかりのところでしょ。評価損は計上せず、先送りしましたよ」
「え、なんだよ。“飛ばし”でもしているのか」
「そうなんです。でも、今年の決算で100億円は引き当てる予定です。残りは最大100億円ですが、これは合併前に処理します」
「おい、それだと、合併比率を見直さないといけないじゃないか。この間の日亜株5株で大都株1株というのは再検討だな。大体、こんな大事な話を隠して汚いじゃないか」
「待ってください。話さなかったのは悪かったです。勘弁してくださいよ。本当に……」

 松野の難詰口調に、村尾は泣かんばかりの調子で続けた。