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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第22回

社長が不倫相手を好き勝手に出世させちゃう!?大手新聞社の呆れた内部

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社長が不倫相手を好き勝手に出世させちゃう!?大手新聞社の呆れた内部の画像1「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
ーー巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、以前から合併の話を持ちかけていた。そして基本合意目前の段階にまで来たある日、割烹「美松」で、村尾、両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)との密談が行われ、松野の後に店を出た村尾は、愛人の由利菜と同棲する“自宅”へ帰宅したーー

 2人の出会いは、21年前に遡る。

 村尾が経済部デスクに昇格したのは、1989年(平成元年)春だった。当時、経済部長だった親分の富島鉄哉前社長の強力な推薦があったからだ。記者としての能力よりも事務処理能力のほうが役立つデスクの仕事は村尾に向いていたが、実績がまったくなく、記者としての能力にバツのついている男が経済部を率いるようなデスクになれないのは、はなからわかっていた。

 それを感じたかどうかはわからないが、村尾は自ら海外勤務を志願し、経済部デスク昇格の1年後の90年春に、ロンドン支局の次長に異動になった。もちろん、富島の後ろ盾があったから、その希望も通ったのだが、赴任地、ロンドンで由利菜と出会ったのである。

 当時、27歳の由利菜は1963年生まれで、村尾の17歳年下だった。地方の国立大学経済学部を卒業した後、ロンドン大学大学院に留学した。背景には、恋仲だった国立大学時代の先輩が、大手金融機関のシティーに設立した英国証券現地法人勤務になったことがあった。そして、留学中に由利菜はその先輩と結婚した。

 結婚したからといって、由利菜はすんなり家庭に入るような女ではなかった。大学院を修了すると、90年秋に日亜新聞ロンドン支局の現地採用補助記者として働き始めた。採用を決めたのが、半年前に次長として赴任してきた村尾だった。現地スタッフの採用が次長に任されていたからだ。文字通り採用面接が2人の出会いだった。

 ロンドン支局には政治、金融、産業、社会の四分野を担当する記者がそれぞれ1~2名、合計6人いた。日本との時差の関係で、記者は午前中は原稿を書くため支局にいることが多かったが、午後は取材で外に出るのが普通だった。彼らの原稿をチェックするのが支局長と次長の仕事だったが、支局長は現地の代表として社交的な会合へ出席するなど、外出の機会が頻繁にあった。だが、次長は、内勤として記者に頼まれた調査や通信社電のチェックなどが仕事で、補助記者と一緒に、一日中支局にいるのが普通だった。

 村尾が由利菜を籠絡するのは時間の問題だった。半年も経たないうちに2人は深い仲になった。東京本社時代から夫人と別居生活を始めた村尾は、ロンドン勤務も単身赴任だった。2人は村尾の居宅で密会を重ねた。

 補助記者として働き始めて1年半後の92年春に、由利菜の夫が日本に帰国した。大手金融機関の本店転勤になったのだ。村尾との不倫がばれたわけではないが、夫との関係がぎくしゃくし始めていた。そんなこともあり、由利菜はロンドンに残り、仕事を続けた。そして、村尾と事実上の同棲を始めることになった。もし、この時に結婚したと仮定すれば、来年春には銀婚式を迎えることになるのは、由利菜の言う通りだった。

●出世のために不倫相手を入社させた?

 由利菜の剣幕に村尾はたじろいだ。ソファーに埋めていた身を起こし、テーブルのブランデーグラスを取っただけで、すぐには言葉が出なかった。

 「銀婚式ね。もうそんなになるかな……」

村尾はようやくぼそっと口を開いた。

 「そうよ。ロンドン時代も含めればね。でも、当時はあなただけじゃなく、私も不倫だったわ。私が離婚したのは正社員になって1年後だから」
 「そうだったな」

 村尾はブランデーグラスをまたテーブルに置き、天井を仰いだ。

BusinessJournal編集部

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