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シリアルアントレプレナー・小川浩「Into The Real vol.18」

コンドーム業界は商品戦略とマーケティングのお手本?複雑性の罠の回避策を学ぶ

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「相模ゴム工業 HP」より
 現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。『ソーシャルメディアマーケティング』『ネットベンチャーで生きていく君へ』などの著書もある“ヴィジョナリー”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。

 僕がまだマレーシアに住んでいたときの話だが、相模ゴム工業という企業が、日本経済新聞に避妊具(コンドーム)の全面広告を出したことがある。全国紙にコンドームの広告が掲載されるなど前代未聞であり、騒然となったことを覚えている。

 相模ゴムは日本で初めて天然ゴムラテックスでコンドームをつくったメーカーだが、国内市場のシェアにおいて、オカモト、不二ラテックスとの競争に後れを取り始めていた。

 コンドームはゴム製だから、当然ゴムの匂いがする。ゴム臭さがいやでコンドームを使用しないという若者たちが多いという声を拾い上げた相模ゴムは、ゴム製コンドームのパイオニアとしての自身を否定することでジャンプアップを狙い、ポリウレタンでコンドームをつくった。「無臭、ゴム臭くない」という商品メッセージをひっさげて、前述の広告展開で勝負に出たのである。

 このマーケティングは大成功し、一時的に相模ゴムは市場を席巻するのだが、破れやすい、という悪評が立ち、失速してしまった。現在でもポリウレタン製のコンドームを売っている相模ゴムだが、主力にはしていないようだ。さらに他社は、素材ではなくジェルの香料でゴム臭さをカットする作戦をとるようになり、「無臭、ゴム臭くない」という商品メッセージは相模ゴムの専売特許ではなくなってしまったのだが、相模ゴムの作戦自体は評価されるべき試みであったと思う。

 コンドームという商品は、実は製品戦略を含むマーケティングの考え方の中で、実に面白い領域だ。

 前述の相模ゴムの事例は、「ゴム臭くないコンドームを開発する」戦略において、素材自体を変えるという戦術を選択した。出し抜かれた他社メーカーはウレタン素材が破れやすいという悪評をうまく利用しつつ、自分たちは同じ「ゴム臭くないコンドームを開発する」戦略においては、香料を追加するという戦術を選択した。

●単純な商品ゆえ、創意工夫が凝縮

 また、その後オカモトは「さまざまなサイズのコンドーム」という、ユーザーのニーズを拾い上げる戦略や、「着けているかどうかわからない」くらいの薄さをテーマにした商品をつくり上げるなどの製品戦略をとって躍進したが、実は世界市場だと、DUREXという英国メーカーが圧倒的なシェアを持っている。

 彼らはあまり「着けているかどうかわからない」というメッセージを重要視せず(つくる技術力がないのかも? 「薄いけど破れない」というのは相反する課題だから)、逆に絶対に破れないという安心感を与えるために極厚コンドームをつくっていたりする。同時に、分厚いということは早漏対策になるので、隠れたメッセージを受け取る消費者も多いと聞く。

 ご承知とは思うが、コンドームは避妊具であると同時に性病防止という機能を求められる。比較的単純な商品だが、各メーカーはさまざまな創意工夫をもって商品開発、そして市場拡大に努めている。単純な商品だからこそ、マーケティングの神髄がシンプルに描かれている。

 僕はIT業界に長くいるが、この業界はわりと複雑な機能を持つ商品が多いので、ついついマーケティングも複雑なやり方に陥ることが多い。それは複雑性の罠であり、非常に危険なトラップである。

 Appleが好調だったのは、この複雑性の罠を逃れることの重要さ、シンプルであり続けることの重要さを誰よりも理解していたリーダーがいたからだ。学ぶべきことはいつも簡単明快なことなのだが、賢い人ほど、どうしてもしくじる。複雑性の罠から逃れることは、実はとても難しいことなのだ。
(文=小川浩/シリアルアントレプレナー)

●小川浩(おがわ・ひろ) 
シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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