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セックス中に男性が勝手に避妊具外す「ステルシング」横行…「性的暴行」の分かれ目とは

文=奥田壮/清談社
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「gettyimages」より

 今年6月、サッカー・ブラジル代表のネイマール選手が性的暴行疑惑で訴えられるという事件があった。女性側の言い分によると、当初はお互いに性行為に同意していたが、女性が避妊具を使うように求めたところ、ネイマール選手は拒否して性行為に及んだという。女性は「彼が避妊具を持っていなかった時点で性的暴行になりました」と主張しており、ネイマール選手は「罠にハメられた」と反論した。

 この一件からもわかるのは、避妊具の使用が「同意のある性行為か否か」の分かれ目になってしまうこともあるということだ。

性行為の同意を求める動きが活発に

 今、世界中で「同意なき性行為」をなくすためのさまざまな取り組みが行われている。

 アメリカでは、大学のキャンパス内で性行為に関する「同意書セット」が配られ、話題となった。その中身は、同意書と避妊具、ブレスミント、ペン。性行為前に2人で同意書を読むことで、女性が身を守るきっかけをつくれるという。

 アルゼンチンでは、2人で協力しなければ使えない避妊具が開発された。避妊具の入った箱の側面に4つのボタンがあり、2人で同時に押さなければ箱が開かない仕組みだ。現在はイベントの参加者に配られる限定品だが、オンラインによる一般販売も予定しているという。

 日本でも、自治体やNPO団体により、性行為の同意について考える運動が繰り広げられている。京都市は、大学生と協力して性的同意のチェックリストを作成した。リストには「キスをしたら、性行為をしてもいい」「同じ相手に、毎回、性行為の同意を取る必要はない」など、性暴力になり得る項目が並ぶ。

卑劣なステルシングとは?

 曖昧になりがちな性行為の同意だが、MeToo運動の広がりもあり、世界的に同意を明確にする流れになっている。一方で、同意しつつもこっそりと裏切る「ステルシング」という行為が横行しているという。

 ステルシング(stealthing)とは、性行為の最中に女性の同意なく男性が避妊具を外すことを指す。「こっそりすること」「内密」といった意味のステルス(stealth)が語源だ。

 アメリカではステルシングの実態を調査した論文が発表され、安全な性行為と信じていた女性を肉体的にも精神的にも裏切る行為と定義づけられた。ステルシングに気づかなければ、女性は妊娠や性感染症のリスクを負ってしまうため、アメリカではステルシングを強制性交等罪として罰するための法改正を求める声もある。

 ドイツでは、相手の同意なく避妊具を外した男性に有罪判決が下されるケースがあった。2018年12月、ドイツの地方裁判所は警察官の男性(36歳)が女性の同意を得ずに性行為中に避妊具を外したということで、禁固刑と賠償金を命じた。性行為そのものに同意していたとしても、勝手に避妊具を外せば罪に問われる可能性があるということだ。

 ステルシング対策はアジアでも広まっており、シンガポールは「新しい性暴力」として、リベンジポルノや盗撮に加えて、ステルシングを罰するための法整備を進めている。

性教育が遅れている日本の課題

 日本は性犯罪に対する法整備が遅れているといわれるが、ステルシングに関しては、その実態すら把握できていない。デートDV防止活動を行っているNPO法人「エンパワメントかながわ」が16年、中学生・高校生・大学生約2000人にデートDVの現状についての調査を実施したところ、交際経験のある女性の6.2%が「パートナーが避妊に協力しない」と回答している。

 エンパワメントかながわの阿部真紀理事長は、「匿名とはいえ、学校の教室や体育館で行ったアンケート調査です。素直に回答できない生徒もいたでしょう。6.2%の女性が避妊してもらえない被害に遭ったと答えているのですが、実態はもっと多いかもしれません」と話す。

 また、この「避妊に協力しない」のなかにステルシングが含まれているかどうかはわからない。ステルシングの被害は表面化しづらく、阿部氏は「相手が気づかない場合もあり、『嫌だ』と声も上げられない。二重の意味で卑劣な裏切り行為」と指摘する。

 世界で高まりつつある、性行為と同意の問題。この課題に向き合うためには、「10代からの教育が鍵を握る」と阿部氏は語る。

「『同意のない行為はすべて暴力になり得る』という人権感覚を養う必要があると思います。自分は今こう思っているけど、相手は違うかもしれない。それを考えることが、人権感覚を磨くスタートになります。性行為をするときの同意の大切さや、どうしたら対等な人間関係を築いていけるかを、若い世代に伝えていかなければなりません」

 当たり前だが、性行為中に相手の同意なく避妊具を外す行為は決して許されない。ステルシングが世界からなくなる日が来ることを願いたい。
(文=奥田壮/清談社)

清談社

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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