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シリアルアントレプレナー・小川浩「Into The Real vol.21」

違う内容の2つの映画『リンカーン』?に学ぶ起業に重要なハイコンセプトとは?

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映画『リンカーン』公式サイトより
 現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。『ソーシャルメディアマーケティング』『ネットベンチャーで生きていく君へ』などの著書もある“ヴィジョナリー”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。

 ハリウッド映画というのは世界産業であり、プロデューサーや監督、脚本家などがチームになってプロジェクトとして立ち上げて、投資家たちを口説いて資金を出させる。当たれば大きいし、外れれば破産する者さえ出る、一種のベンチャー事業だ。映画をつくり、配給し、観客動員して制作費を回収して、さらに利益を生み出すという短期間の事業であり、映画の制作チームはシリアルアントレプレナーに似ていると言えるだろう。

 映画制作のプロデューサーたちは、投資家を口説いて出資に同意させなければならない。そのときに最も重要なキーワードを「ハイコンセプト」という。ハイコンセプトとは、投資家をその気にさせるためにわかりやすく映画の趣旨を説明するための短いセンテンスだ。相手を“乗せる”ために映画のコンセプトを簡潔に、しかし強力に魅惑的に伝える。そのための表現がハイコンセプトだ。ハイコンセプトを投資家に聞かせて、魅了することができて初めて、脚本を読んでもらえるし、キャスティングなどの具体的な話を聞いてもらえる。

 ハイコンセプトは斬新でなければならない、ということはない。流行廃りはあるし、タイミングというものもある。例えば、古い例で恐縮だが『ジョーズ』は人食いザメがリゾート地を恐怖に陥れるというスリラーだが、その後人食い熊がキャンプ地を恐怖に陥れる映画『グリズリー』が登場し、それなりに受けた。『グリズリー』のハイコンセプトは、“熊版のジョーズ”になる。つまり、市場がある、観客が喜ぶと実証されたハイコンセプトを真似る、クローン映画はある程度の売上の計算が成り立つわけだ。

 ちなみに、日本で最近注目を浴びているスタートアップのコイニーのハイコンセプトは、和製スクエアだ。また、2年前に急増したフラッシュマーケティング企業たちは和製グルーポンである。

●似ている題材の映画が生まれるカラクリ

 実際、世の中には似ているコンセプトや題材の映画はたくさんある。毎年たくさんの映画が生まれているわけで、ちょっと聞いただけでは違いがわからない映画は多い。最近、元英国首相のマーガレット・サッチャー氏が亡くなられたが、彼女の自伝映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(2011年/メリル・ストリープ主演)は、“初の女性英国首相の生涯の映画化”というのがハイコンセプトだったろう。

 それに対して、4月19日公開のスティーブン・スピルバーグ監督作品の『リンカーン』は、“奴隷制度撤廃に心血を注いだ第16代米国大統領エイブラハム・リンカーンの生涯の映画化”となる。この2つは、基本軸は著名政治家の生涯の映画化であり、題材が違うだけだ。今後もしかしたら応用編として、旧ソ連最後の最高指導者・ミハイル・ゴルバチョフの生涯の映画化もあるだろう。

 ちなみに、2012年の年末に日本で公開された『リンカーン 秘密の書』と、先ほどのスピルバーグ監督の『リンカーン』を混同していた人は結構いるのではないか?(笑)

 双方とも実在の人物である第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンを主人公にしている映画だが、前者はなんと吸血鬼と戦うヴァンパイアハンターの顔を持つアクションスリラー。後者は、我々が容易に想像できる奴隷制度の撤廃に一生を捧げたリアルなリンカーン像の映画化である。

 投資家にそれぞれのチームが話を持ちかけたときには、ちょっとした混乱があったかもしれない。観客にとって、同じ人物を主人公にした映画がまったく別の内容で存在することで、互いの足を引っ張るのか、それとも不思議なシナジー(相互作用)があるのか、簡単には想像できない。

●似たアイディアを持つ企業の明暗を分けるものとは?

 つまり、似たような題材をベースとした映画化事案は意外に同時に発生するものだ。それはベンチャーのスタートアップ市場と同じで、非常に近いアイデアをベースとした企業が同時に起業されることはよくある。どちらがうまく投資家を口説き落とせるかについても、まずはどちらがよりわかりやすくて魅力的なハイコンセプトを用意できるかにかかるだろう。