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安部徹也「MBA的ビジネス実践塾」第1回

新iPad発売のアップル、ライバルに苦戦で繰り出した新価格戦略の狙いとは?

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新iPad発売のアップル、ライバルに苦戦で繰り出した新価格戦略の狙いとは?の画像1iPad mini Retinaディスプレイモデル(「Apple Japan HP」より)

 メガバンク勤務後、アメリカのビジネススクールでMBAを取得し、今では幅広い企業の戦略立案やマネジメント教育に携わる安部徹也氏が、数多くのビジネス経験やMBA理論に裏打ちされた視点から企業戦略の核心に迫ります。

 創業者であるスティーブ・ジョブズ時代に隆盛を極めたアップルの業績が減速しています。

 10月28日に発表された四半期決算によると、売上高は前年同期比4.2%増を記録したものの、純利益は8.6%の減少と3四半期連続の減益となりました。9月に発売された新型のiPhone 5s/5cの売上は好調だったものの、iPadの価格下落が進んだために、最終的に減益につながった模様です。

 ただ、年末商戦に向けて10月22日には新型のiPad AirとiPad mini Retinaディスプレイモデルが発表されたことから、今後の巻き返しに期待がかかるところです。

 さて、このiPadシリーズのモデルチェンジを細かく分析すると、特にiPad miniの価格戦略にこれまでとは違う兆しが見て取れます。

 今回はこのアップルの価格戦略の変更の意図を、イノベーター理論を使って読み解いていくことにしましょう。

●新製品の価格戦略を変更したアップル

 アップルはこれまで製品の“計画的陳腐化”を図って売上を上げるために、およそ1年のサイクルで新製品を投入してきました。毎年スペックアップする製品にユーザーは買い替え意欲を刺激されてきましたが、背景にある一つの要素が、アップルのペネトレーションプライシング戦略といえるでしょう。

 企業が新製品を投入する際には、マーケットシェアの拡大を図るために低価格で新製品を投入するペネトレーションプライシングと、差別化された製品を高価格で投入するスキミングプライシングという、大きく分けて2通りの価格戦略があります。これまでアップルは、新製品であろうと旧製品と同じ価格で投入するペネトレーションプライシングを採用してきました。

 ところが、今回新型のiPad miniでは、新製品の価格を4万1800円と従来の3万2800円から9000円も値上げする一方で、旧製品を1000円値下げして3万1800円で併売することを発表。

 iPad miniの競合商品と目されるGoogleの新型Nexus 7やAmazonのkindle fire HDX7がそれぞれ2万7800円、2万4800円で発売されていることを考えれば、新型のiPad miniはライバル機よりも1万数千円以上高い価格で投入されることになり、これまでのペネトレーションプライシングから明らかに高価格のスキミングプライシングへ価格戦略をシフトしてきたことが読み取れます。

●価格における両面戦略の狙いとは?

 なぜ、アップルはここにきてiPad miniの価格戦略を、より高額なスキミングプライシングにシフトしてきたのでしょうか?

 この戦略的な意図を読み解くために、イノベーター理論を当てはめると、一つの答えが見つかるかもしれません。

 イノベーター理論とはスタンフォード大学のロジャース教授によって体系化された、消費者がイノベーションを受け入れるタイミングとその特徴を明らかにしたものです。例えば、新たな製品が生み出されて市場に投入されると、まず革新的な消費者層(イノベーター)が購入し始めます。続いて、オピニオンリーダー的な消費者層(アーリーアドプター)が購入し始めると製品は市場での認知度が高まり、評判を聞きつけた初期の一般消費者層(アーリーマジョリティ)が購入を始めます。

 それから、購入には慎重だった後期の一般消費者層(レイトマジョリティ)が購入し始め、最終的に保守的な消費者(ラガード)が購入してすべての消費者層にイノベーションが行き渡るというプロセスになっているのです。

 ここで、イノベーターやアーリーアドプターは、イノベーションに夢やロマンを求め、価格をあまり気にすることなしに新製品を購入する傾向があるとされています。一方で、アーリーマジョリティ以降の消費者は、イノベーションに実利を求め、価格が合理的でなければ購入しないという特徴を持っているのです。

 このイノベーター理論に当てはめれば、今回の新型iPad miniは9000円も値上げをしましたが、それはイノベーションに夢やロマンを求め、価格のことはあまり気にしないイノベーターやアーリーアドプターに向けたプレミアム価格であり、実利を追うアーリーマジョリティ以降の消費者に対しては、旧型製品を1000円値下げしてリーズナブルな価格で提供し、コストパフォーマンスで満足してもらおうという狙いなのではないかと読み取れます。

BusinessJournal編集部

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