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ヤフーEC出店無料化、劣勢挽回の秘策となるか?株式市場からは冷めた反応も

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孫正義氏(「Wikipedia」より/nobihaya)
 ヤフーが10月7日に突如発表した「Yahoo!ショッピングの出店無料化」が、ネットを中心に大きな騒ぎになっている。

 具体的には10月7日16時より「Yahoo!ショッピング」の出店料(初期費用2万1000円、月額費用2万5000円)と売上手数料(売上額の1.7-6.0%)を無料に、「ヤフオク!」のストア出店料(月額1万8900円)も無料にするというもの。

 ヤフーは続けて9日、「Yahoo!ショッピング」の出店希望社数が、わずか1日で通常の数百倍となる約1万件に達し、新たに開始した「個人」の出店希望者数も約1万6000件を突破した。「ヤフオク!」の出店希望者も通常の申し込みの30倍に上ったと発表。「無料化ショック」の反響の大きさを見せつけたといえよう。ネットでは「これで楽天を追い抜くのは時間の問題」「ヤフー英断歓迎」といった書き込みが多く見られる。

●5530億円が吹き飛ぶ

 これと対照的に、冷めた反応を示したのが株式市場だった。

8日の東京株式市場ではヤフーが株価を6.5%下げた一方、楽天の株価もその煽りを受けたかたちで11.7%安と急落。9日になっても下げが止まらず、ヤフーは3.7%安、楽天は1%安で取引を終えた。

 11月9日付ブルームバーグ記事では、「株価下落により、発表からの2日間で両社の時価総額が合わせて5530億円以上も吹き飛んだ」と報じている。

 また、11月9日付日本経済新聞では「(ネット通販の)価格競争が本格化し、事業の収益性が低下しかねないとの懸念が広がった。(略)サイトの運営各社が『利益なき繁忙』に陥るリスクを市場は警戒し始めた」と両社の株価下落要因を分析している。

 市場関係者は「無料化によってネット通販利用者を増やす一方、出店者からの広告収入を増やすことで事業拡大を図るとヤフーは説明したが、こんなあいまいな戦略では市場が警戒するのは当然」と、ヤフーの「勘違い」に顔をしかめている。

 こうした市場の警戒を買ってまで無料化に踏み切ったヤフーの狙いは、どこにあるのだろうか?

●宮坂社長の失敗

 それまで、ほぼ宮坂学社長に任せていたEC事業(「Yahoo!ショッピング」と「ヤフオク!」)について、孫正義会長が口を出すようになったのは今年1月頃からだといわれる。

 2012年7-9月期のEC事業の取扱高は3751億円で、前年同期比微減だった。同期間に楽天が取扱高を約11%伸ばしたのと対照的だった。

 このことは、昨年6月に就任した宮坂社長も十分認識していたようで、今年6月、ある媒体の取材に対して「過去1年間取り組んできた『爆速(経営)』で、EC事業の伸び悩みが唯一の取りこぼし」と反省している。自ら主導する「爆速経営」の効果で、主力のネット広告事業は順調に推移している。だが、「19年3月期までに連結営業利益を3300億円(12年3月期の2倍)」という目標達成にはEC事業の拡大が不可欠。それが自分の思うように進んでいないからだ。

 同社が今年4月に発表した13年3月期連結決算におけるEC事業を含むコンシューマ事業の売上高は、前期比5.9%増の1060億円。年率7~8%の伸びで成長しているといわれる国内EC市場の平均伸び率を下回っている。

 同社コンシューマ事業関係者は「1999年のネット通販参入以来、テナントの質を重視し、慎重に出店を認めていたため、ライバルに後れを取った」と悔しがる。

 12年度末のヤフーのネットショップ数は2万431店で、1店当たりの月商は151万円。一方、97年にネット通販へ参入し、ヤフーがライバル視している楽天のネットショップ数は4万735店で、1店当たりの月商は296万円。店舗数・月商とも楽天には約2倍の差をつけられている。

 急速に普及したスマホへの対応遅れも、楽天との差を縮められなかった一因と見られている。

 そこで「楽天に追いつき、追い越せ」(コンシューマ事業関係者)の秘策として、宮坂社長が就任前から打ち出していたのが「最強タッグ」と呼ぶネット通販他社との提携戦略だった。

 昨年5月には事務用品通販のアスクルと業務・資本提携契約を結び、330億円を投資してアスクル株の42%を取得、同契約に基づき昨年10月に日用品のネット通販サイト「ロハコ」をアスクルと共同開設した。また、今年1月にはローソンとの共同出資会社を通じて、食品のネット宅配サービス「スマートキッチン」も開始した。

 しかし、通販業界関係者は「通販市場へのインパクトが弱く、ヤフーが計画したほどの効果は上がっていない。いま秘かに計画の練り直しが行われている模様だ」と明かす。

 こうした宮坂社長のEC事業もたつきに業を煮やしたのが孫会長といわれている。

●孫会長が狙う一発逆転勝負

そのような背景があり、冒頭の「出店無料化」は宮坂社長の口からではなく、孫会長が自ら発表したのだった。

 10月7日午後、都内でヤフーが「Yahoo!ショッピング」出店社向けに開催した事業説明会「ストアカンファレンス2013」でのことだった。およそ3年半ぶりに「ヤフー取締役会長」の肩書で公の場に現れた孫会長は、メインイベントの講演会の冒頭から「今日は革命的な内容をご説明する」と切り出し、くだんの出店無料化の発表をした。業界関係者は「それだけ孫会長の強い危機感をうかがわせた」と振り返る。

孫会長は「eコマース領域における新戦略」と題した当日の講演会で、無料化により出店のハードルを引き下げ、出店社数・出品数を飛躍的に拡大し、「ネットで買えないものはない世界を実現したい」と熱弁を振るった。

 講演のポイントを要約すると、次の点になる。

(1)無料化のインパクトで国内ネットモール(仮想商店街)トップの「楽天市場」を19年までに抜き、「Yahoo!ショッピング」がトップになる。

(2)同社EC事業のモデルを「手数料型」から「メディア型」に転換する(無料化で出店料収入を放棄する代わりに、広告料収入の拡大を狙う)――例えば、商品の検索結果に優先表示する広告枠や、「Yahoo!知恵袋」「Yahoo!検索」などに表示する出店社向け広告枠を新たに設けて販売する。

 また、孫会長は講演の中で「そもそもインターネットは自由な環境であるべきはずなのに、ネットモールだけが出店等のコストがかかり、不自由だった。これまでのヤフーは間違っていた」とも強調した。一方、宮坂社長は「無料化により14年3月期の営業利益が最大90億円減収するなど、短期的には利益が圧迫される見込み」も明らかにした。

 会場で説明を聞いていた出店関係者たちは、「eコマース革命宣言」「主役の交代」「ビジネスモデルの革新」など、孫会長の口から次々と吐き出される熱弁に拍手喝采するなど、大いに盛り上がっていた様子だ。

●不安要素の多い「革命」

 だが、説明を冷静に聞くと不確実な要素が多く、株式市場が不安感と警戒感をあらわにしたのもうなずける。

 無料化について、普段から身近に孫会長と接しているソフトバンク(ヤフーの親会社で、孫会長は同社社長)関係者は「『Yahoo!BB』と同じ戦略で、新しい市場を切り開けば勝算はある」と断言。その論拠として、ヤフーがプロバイダサービス「Yahoo!BB」を開始した01年、街頭でモデムを無料配布するなどの販促で会員を着実に拡大、ブロードバンド普及の起爆剤の一因となった前例を挙げている。

 つまり、ハードルを下げて市場を活性化させれば、ヤフーのネット通販事業を成長軌道に乗せられるというわけだ。

 これに対して、証券関係者は「ネット通販とプロバイダサービスは、まったく別の世界。プロバイダの成功経験がネット通販に通じると考えるのはいかがなものか。それに01年と今では、ネット環境も劇的に変化している」とソフトバンク関係者の見方には懐疑的だ。

 一方、ネットビジネス関係者は「手数料型というネットモールビジネスの常道内の販促策では永遠に楽天に追いつけない。ネット通販の業績低迷も打開できない。ここはひとつ、世間がアッと驚く常識外れの販促策を打ち出すしかないと孫会長は考えたのではないか」と推測する。

 無料化が、孫会長の託宣通り「eコマース革命」になるのか、大受けを狙った博打で終わるのか。通販業界内では、早くもヤフーの14年3月期決算発表に関心が移っている。
(文=福井晋/フリーライター)