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吉田潮「だからテレビはやめられない」(2月10日)

『最高の離婚』SP、なぜ秀逸?夫婦のすれ違いをリアルに描写、期待される続編への伏線

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『最高の離婚 Special 2014』公式サイト(「フジテレビ HP」より)
 主要なテレビ番組はほぼすべて視聴し、「週刊新潮」などに連載を持つライター・イラストレーターの吉田潮氏が、忙しいビジネスパーソンのために、観るべきテレビ番組とその“楽しみ方”をお伝えします。

 濱崎光生が帰ってきた。この男の、矮小で卑屈で、でも時折正論をぶちかますところが大好きだった。「ハマザキ」じゃなくて「ハマサキ」。彼にハマった人は2時間半をたっぷりと堪能できたはず。2月8日に放送されたテレビドラマ『最高の離婚 Special 2014』(フジテレビ系)である。昨年連続ドラマとして放送された『最高の離婚』のスペシャル編だ。

 瑛太演じる濱崎光生、その元・妻で、ずぼらでがさつだが実は人一倍傷つきやすい濱崎結夏を演じるのが尾野真千子。この夫婦が勢いで離婚し、モヤッと仲直りしたところで連続ドラマは終わっていたから、今回は待望の続編だ。

 このドラマの最も秀逸な点は、夫婦の在り方を問うところだ。そもそも男と女に共通言語なんかない。あるワケない。お互い理解不能な生き物だからこそ、寄り添おうと努力する。でもうまくかみ合わないことがほとんど。そんな男女のすれ違いやズレを、一方の主張に偏ることなく、しかも美化せず、生々しく俎上(そじょう)に載せるところが卓越しているのだ。

 瑛太と尾野の夫婦も、お互いに本音をぶつけあい、傷つけ合う。その様子も言葉も、まんべんなくリアルである。過剰な演出をせず、淡々と定点カメラで追う。画面の端を猫が横切ったりする日常感(愛猫・マチルダとはっさく)。この手の、理屈っぽい男と感情的な女の組み合わせって、世の中に相当数いると思うのだが、瑛太と尾野はまさにその権化。

●地に足のついた日常感

 もうひとつ、男女間で深い溝になるのが「子供問題」。子供はまだ欲しくない男と、早く子供が欲しい女の「温度差」。今回はこの温度差にも踏み込んでいた。これも世の中の夫婦で相当勃発している摩擦である。脚本家の坂元裕二は、こういうリアルな論点を描き出すのが本当にうまい。嘘くさい家族ごっこや薄っぺらい恋愛模様など、巷にあふれるような作品は決して描かない。かといって浮世離れせず、地に足のついた日常感を表現する。坂元裕二ファンはこの「日常感」をこよなく愛していると思う。

「背中がかゆいから掻いて」とか「プロレスの技をかける」ことで、瑛太にセックスを求める尾野の姿はなんとも可愛らしく、欲望と羞恥の女心がうまく滲み出ている。ところが、電気をつけてわざわざコンドームを探し始める瑛太。女心をまったく理解できていない残念感と厄介さ。しかも「切れてるからコンビニまで買いに行く」とまで言う。もう、そのどうでもいい男のこだわりには舌打ち百万回である。

 かといって、瑛太もバカではない。慎重で臆病で悲観的なだけなのだ。感情に任せて暴走する尾野を冷静に見つめているのは確かである。「あたしも家族が欲しいの! 結婚と子供はセットなの!」と叫ぶ尾野に、「子供がいないと家族じゃない、なんて考え方が古い!」と反論する瑛太。うん、確かにそれは正論だ。彼には優しさと配慮が足りないだけで、実は素直で真正直。尾野にしてみれば「人の意見を聞く余白がない」男なのだが、瑛太は憎むべきクズではない。厄介で不器用なだけなのだ。

 男女のやりとり(口喧嘩)がとにかくリアルで、ハラハラしたり、イライラしたり。瑛太に激しく同意する部分もあれば、尾野の涙にもらい泣きする部分もあり。喧嘩両成敗が絶妙なバランスで組み込まれているところに心底感心する。

 今回はちょっぴり切ないエンディングだったが、続編を期待させるような伏線もあった。もし尾野が妊娠していたら……。その続きは、ぜひ連続ドラマで観てみたいものだ。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

●吉田潮(よしだ・うしお):
ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)、「ラブピースクラブ」(ラブピースクラブ)などで連載中。主な著書に『2人で愉しむ新・大人の悦楽』(ナガオカ文庫)、『気持ちいいこと。』(宝島社)、『幸せな離婚』(生活文化出版)など。カラオケの十八番は、りりぃの「私は泣いています」、金井克子の「他人の関係」(淫らなフリつき)など。