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西武HD、すべて「想定内」の再上場?対立のサーベラス、なぜ最良の出口を自ら封じたのか

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西武HD傘下のプリンスホテルが運営する「ザ・プリンス・パークタワー東京」(「Wikipedia」より)
「良いかたちでの上場は果たせたと思う」。西武ホールディングス(HD)の上場初日にあたる4月23日、取引終了後の会見で記者から現在の心境を聞かれた後藤高志社長はこう答えた。

「良いかたちでの上場を目指す」とは、米投資ファンド・サーベラスとの対立が表面化して以降、繰り返し後藤氏が言い続けてきたセリフである。初値が1600円、終値が1770円だったので、とりあえず初値も上場初日の終値も、公募価格の1600を下回るという赤恥をかかずに済んでほっとした、という文脈で語られたセリフではある。

 だが、一昨年暮れから始まった、サーベラスと西武HDの対立の経緯経過を考えると、公募価格が当初の仮条件価格であった2300円を大幅に下回ったことも、サーベラスが売り出しを辞退したことも、そのすべてが西武HDの想定内のシナリオ通りであり、それも含めて良いかたちでの上場が果たせたという意味だったのではないかと解釈せざるを得ない。

 そもそもなぜ、蜜月関係にあったはずの西武HDとサーベラスが上場申請を目前にして対立することになったのか。それはずばり、上場にあたって既存株主が保有株を売り出す際の公募価格で、見解に著しいズレがあったからだ。サーベラス側は2000円以上を主張し、西武HD側の主張は推定で1200円~1300円。これだけの開きが出た最大の理由は、保有資産の含み益を考慮するかしないかについて見解の相違が生じたためだというのが定説だ。

●「IPO価格に含み益を考慮」はありえない

 さてここで、本稿の大前提として、なぜか誤解されがちなIPO価格の決定ルールについて改めて整理してみよう。

 会社が新規に上場する際に、既存株主が保有株を売り出したり、新たに会社が新株を発行する際の価格をIPO価格といい、価格の決定ルールは厳格に決まっている。

 当該企業と同一セクターの上場会社のPER(株価が1株当たりの当期純利益の何倍かを示す倍率)とPBR(株価が1株当たりの純資産の何倍かを示す倍率)の平均値を算出し、それらを新規に上場する当該企業の1株当たり当期純利益と1株当たり純資産に掛け合わせて、大体の金額のゾーンを割り出し、さらにその金額から15%ディスカウントした金額が、その会社のIPO価格のゾーンになる。選択する「同一セクターの会社」は、そのセクター内で飛び抜けて株価が高い会社を1~2社選ぶなどという恣意的な操作は許されず、原則、そのセクターに所属する複数企業のPER、PBRの平均値を使う。すでに上場している会社の平均値と、株式市場ではなんの実績もない会社が同じPERとPBRでよいわけがないから、15%ディスカウントするのだ。

 このルールは上場を目指した瞬間から、上場への水先案内人となる主幹事証券から徹底的にたたき込まれるルールなので、株価が高いセクターに分類してもらえるよう、上場を目指す企業は血道を上げる。

 例えば、実店舗とインターネット販売の2つのチャネルを持つ小売り企業なら、ネット通販の比率を上げて株価が高いITセクターへ分類されるように努力するし、複数の事業を営む企業であれば、株価が高い企業と同セクターの事業部門の構成比率を数年かけて伸ばす努力もする。それくらい、このIPO価格の決定ルールは常識であり、IPO価格に不動産の含み益を考慮するなどという発想は入り込む余地がない。時々恣意的なIPO価格での上場があると、市場は正直に反応し、初値がIPO価格を下回ったきり株価は下がりっぱなしというしっぺ返しをする。