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朝日誤報騒動、法的責任と罰則は?なぜ謝罪のみで許される?誤報抑止の法的整備を検証

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9月12日付朝日新聞
 9月11日、朝日新聞社の木村伊量社長は記者会見を行い、東京電力福島第1原子力発電所事故に関する政府事故調査・検証委員会による吉田昌郎元所長(昨年7月死去)への事情聴取、いわゆる「吉田調書」に基づき「所員が吉田氏の命令に違反し撤退した」などと報じた記事について、「待機命令に背いて職員が撤退したという事実はなかった」として取り消すと発表。「読者や東電関係者に深くおわびする」と謝罪するとともに、自らの進退について社内改革後に「速やかに決断する」と述べ、自身の辞任を示唆した。

 また、「済州島で慰安婦を連行した」という慰安婦問題をめぐる報道(1982年)を今年8月の点検記事で取り消した件についても、「誤った記事を掲載し、訂正が遅きに失したことを読者におわびする」と謝罪した。

 前述のとおり会見で木村社長は「東電関係者に深くおわびする」と語っているとおり、「撤退した」とされた東電関係者及び東電の名誉を棄損する結果となったようにも受け取れるが、今回の朝日の誤報は法的にどのような問題があるのだろうか。弁護士法人アヴァンセリーガルグループ執行役員で弁護士の山岸純氏は、次のように解説する。

「まず、今回の『福島第一原発にいた東電社員らの9割にあたる約650人が吉田所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発に撤退した』という旨の誤報は、仮にどんなに稚拙な取材・編集によって行われたものであっても、名誉棄損を理由とする損害賠償が命じられたり、何かの罪に問われることはほぼありません。なぜなら、『東電社員らの9割にあたる約650人』では、誰の名誉を棄損したのか特定できないからです。

 また、『旧日本軍は済州島から女性を慰安婦として強制連行した』という旨のの誤報も同様です。将来の歴史家が『国内はおろか海外にまで大きな影響を与え、国益も損じかねない誤報であった』と評価したとしても、朝日に対し法的にはなんのお咎めもありません。なぜなら、『誤報で国や国民を辱めた』といったところで、あまりにも漠然としていて名誉棄損罪はおろか侮辱罪の対象にもなり得ないからです。例えば『真珠湾攻撃では、旧海軍の戦闘機はアメリカの幼稚園も爆撃していた』『本能寺の変で織田信長を裏切ったのは徳川家康だった』と誤報したところで、誰の権利も侵害していないのと同じことです」

●謝罪会見やトップ辞任で許される法的背景


 では、なぜ新聞の誤報は、「謝罪会見」や「トップと関係者の辞任」程度で終わってしまうか。

「その最たる理由は、新聞業にはその『業』のルールを法制化した、いわゆる『業法』が存在しないからです。建設業、放送業、鉄道業、不動産業、警備業、金融業、医業、飲食業、訪問販売業、弁護士業など、世の中の業には、ほとんどの場合、当該業を規制する業法と呼ばれる法律があります。そして、これら業法の最大の目的は、それぞれの業が持つ国民への影響力の大きさに着目し、国民の生活の安全などを図るためにあります。要するに、専門職が行うことは、国民にとってとても影響力があることであり、彼らの行動を野放しにしてしまっては、国民に取り返しのつかない大きな損害が発生してしまうリスクがあるため、予め取り締まる必要があるということです。