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雑誌不況、地獄の季節へ ビジネス誌部数激減、「スクープ」から「身の回り」の時代に

文=長田貴仁/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー、岡山商科大学教授
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●「顧客の声を聞く」の罠

 マーケティング戦略でも、「顧客の声を聞く」ことの重要性と扱いについて議論されている。顧客はニーズを有しているが、その声は素人の発想から生じたものである。また、既存商品・サービスに対する不満であることが多い。それを真に受けて付加価値をつけず商品化しては、どこの会社も同じ商品を発売することになる。つまり、競争戦略でいうところの「差別化集中」を実現できない。日本企業は熱心に市場調査をするだけに、その罠にはまることが少なくない。

 ともあれ、どの雑誌も創刊号は華々しくデビューし注目される。編集長はメディアからインタビューを受け、書店も良い場所を確保し、丁重に扱ってくれる。しかし、その後、内容や世の中の変化により、鳴かず飛ばずになってしまう雑誌が後を絶たない。

 プレジデント社が前社長の肝いりで創刊した「プレジデントファミリー」もその一つである。別冊からスタートし、当初は20万部に達したと話題を呼んだが、その後は線香花火のようにしぼんでいく。月刊化したのはいいものの、鳴かず飛ばず。今は季刊誌(年4回発行)になっている。日本経済新聞社、朝日新聞社グループの出版社が、類似の雑誌を出してきたことから、このジャンルでも、小さな市場を食い合ったのだろう。さらに、同じような特集ばかりを繰り返しているので飽きられてしまったことも敗因の一つだろう。

「プレジデント・ウーマン」の創刊号を見る限り、「プレジデント」の別冊としてスタートしたとはいえ、その焼き増しかと思えるほど「プレジデント」風女性誌に出来上がっている。「プレジデント」でも人気を呼んでいるからという発想で似たような特集を組み、女性向けに置き換えている。では、女性向けとは何か。他の女性誌を参考にして、図解や写真をたくさん使い、情報をわかりやすく伝えようとしたというのが経営者の答えだ。

「日経ウーマン」とどう違うのか。「プレジデント」が開拓しつつある女性読者を奪わないか。雑誌編集経験者としてだけでなく、経営学の観点からストレートに考察しても、議論すべき点がいくつも浮かぶ。もうひとひねりが必要だ。例えば、女性はこうだから、と女性の視点で決めてかからないことだ。また、本当の意味で、男女共同参画社会を実現するためにはいかにあるべきか、というアングルから男性色をあえて取り込むこともありかもしれない。

●女性ファッション誌とは似て非なる女性ビジネス誌

 とうの昔からカトリックをはじめとする伝統的宗教は、脳科学でいわれているようなことはお見通しであった。「男女がともに心地よく生きていける社会とは、企業とは」といった視点から女性誌は女性と同様に男性を研究テーマにすべきではないか。良い意味でも悪い意味でも、既存のビジネス誌は、なんでもかんでもフレームワークで片づけられるような合理性ばかりを追っかけ、非合理性、文学性、人間の性、男女の機微、つまり、広義の情緒が欠けているように思われる。

 女性誌は、出版広告不況の中にあって広告がつきやすい唯一の媒体といわれているが、女性ビジネス誌は、商業性が極めて強い女性ファッション誌とは似て非なるもの。はたして、地獄の季節に突入したビジネス誌市場で、女性による女性向けの女性ビジネス誌は活路を見いだせるのだろうか。女性も男性も同じく活躍できる社会が望ましいが、双方とも身の回り半径数メートル範囲のようなことしか考えない木っ端ビジネスパーソンになってはいけない。志高き社会性、教養、歴史観を備えた大きな器の女性を育てる媒体になるよう、「女性ビジネス誌」のイノベーションと健全な発展を心から応援している。
(文=長田貴仁/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー、岡山商科大学教授)

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