この合併は「自動車業界だったらトヨタ自動車と独フォルクスワーゲンが一緒になるようなもの」とアナリストは表現した。数字でみると、その大きさがよくわかる。
2014年の世界シェアはABインベブが20.8%、SABミラー9.7%で合算すると30.5%。世界シェアの3割を握ることになるわけだ。日本勢の世界シェアは、キリンホールディングス(HD)とアサヒグループHDを合わせても4%強にすぎない。
合併する2社の14年の売上高の単純合計は8兆3000億円で、日本のビール大手4社の合計7兆円を上回る。時価総額はABインベブが23兆円、SABミラーが10兆円で、合わせて33兆円だ。
コンサルティング会社、英ミルワード・ブラウンが発表する「最も価値があるグローバルブランド上位100」によると、ABインベブとSABミラーは世界のビールブランドの上位10のうち8つを持っている。とてつもない巨大企業が誕生することになるわけだ。
ABインベブは米国とブラジルが主要市場。アジアと欧州、メキシコがそれに次ぐ。一方、SABミラーは大半がアフリカ市場で、中南米、北米、中国と続く。ABインベブは08年の米国アンハイザー・ブッシュをはじめ、世界各国で買収を繰り返してきた。だが、今後成長が期待できるアフリカやインド市場は手薄だった。SABミラーを手に入れた狙いはアフリカ市場の獲得にある。
ABインベブ=SABミラー連合が狙うアジア市場
ビール業界の世界的再編は、日本勢にどんな影響を与えるのか。
世界第3位のオランダのハイネケンはアジアに強い。キリンHDがミャンマーのビール会社を買収した際、ハイネケンと世界4位のデンマークのカールスバーグが対抗馬として名乗りを上げた。
キリンHDは8月中旬、ミャンマー最大のビールメーカー、ミャンマー・ブルワリー(MBL)の株式の55%を約697億円で取得し子会社にした。MBLはミャンマーのビール市場で8割のシェアを握る。
キリンHDは世界の大手が手を伸ばしていない市場で存在感を発揮している地場メーカーと連携する戦略を採ってきた。09年にフィリピン最大手のサンミゲルの株式の48%を1300億円で取得。同年には豪ビール2位のライオンネイサン(現ライオン)を2300億円を投じて完全子会社にした。11年にはブラジル2位のビールメーカーのスキンカリオール(現ブラジルキリン)を3000億円で買った。従来の東南アジア・オセアニア重視から一歩踏み出した。だが、ブラジルは世界首位のABインベブの牙城で、完膚なきまでに打ち負かされた。