「原油安、円高、米国経済の不振により日本経済が不調だ」「アベノミクスの効果がなくなり、日本の株式市場が下落している」といった論が、マスコミによく出てくる。これだけいい加減な理屈がまとまって同時期に出てくるのも珍しい。事実に反していたり、過去の説明と矛盾したり、同じ日の同一のメディアが複数の矛盾する説明をしていたりする。いくつか、典型的な例をあげてみよう。
原油安
原油安が悪いことのようにいうのは、間違いだ。原油安は、資源のない日本にとってはプラスなのは間違いない。たとえば、イランの経済制裁が解除されて、今後原油が下がるのを問題であるかのようにいうのはおかしい。
少し前の原油高のときに、原油高で「悪いインフレ」が起こり、貿易収支が悪化して日本経済に悪影響が出ていると報じておきながら、今度は原油安で大変だと騒ぐのは、滑稽ですらある。
これは、中国の経済状況という同じ原因で、直接間接にプラスとマイナスの影響が出ている例ともいえる。中国経済の成長鈍化というひとつの原因が、直接的には日本の輸出の低下によりマイナスになる一方で、間接的には原油安を通じて日本経済にプラスの効果をもたらしている。
しかし、その原因結果の構造は、原油安があくまで日本経済にプラスだと示している。付け加えるならば、原油安は、原油輸入国である中国にとってもプラスであって、中国経済を少しでも支えているという意味でも日本経済にプラスに働いている。
原油安によって運用資産が減ってきた産油国が資金を日本の株式市場から引き揚げたことにより、株価が下がる影響が出ている。しかし、そうした外部要因によって株価が下がっていることよりも、原油安が実体経済に好影響を及ぼしていることのほうが大事だ。後述のように、そもそも株価の短期的な変動をもって経済状態をみようとするのは、益より害のほうが多い。
円安
現在の1ドル110円あたりの「円高」は、日本経済にとって悪くない。そもそも、日本経済の輸出依存度は11%程度で、中国の20%台、韓国の50%近くなどと比べても随分低い。歴史的にも、自国通貨が弱くなって崩壊する国はあっても、自国通貨が強すぎてつぶれた国はない。
円高の時代には、マスコミは円安待望論を叫んでいた。そして、実際に円安になってみると、一部の輸出関連の企業以外、一般の人はみんな恩恵を感じなかった。そうすると、マスコミは「実感できない円安メリット」などと書いていた。