軽減税率制度が盛り込まれた消費増税法案(所得税法等の一部を改正する法律案)が、3月29日に国会で成立し4月1日に施行された。すると財務省は待ってましたとばかりに12日、国税庁から軽減税率制度のQ&Aを公表した。これは、消費増税を実現するための財務省による安倍晋三首相包囲網のひとつだろう。財務省は「法案も成立し、Q&Aもつくりました。もう後戻りはできませんよ」と安倍首相に言いたいのではないだろうか。
どのような場合に軽減税率を適用するのかという線引をめぐっては、国会で「(客が軽減税率が適用される)テイクアウトと言って8%の税率で買ったものを、(軽減税率が適用されない)店内で食べる」場合はどうなるのかを問いただされた安倍首相が、「テイクアウトと言って店内で食べる子がいたら注意するのが大人の義務ではないか」と国会で述べるなどして議論を呼んでいた。しかし、4月12日に公表された「消費税の軽減税率制度に関する取扱通達」や「消費税の軽減税率制度に関するQ&A」では、「テイクアウト商品を店内飲食しても構わない」と明確に示している(下記:個別事例編・問1の答参照)。
つまり、財務省は「テイクアウトしても誰からも注意されることもなく、堂々と店内で食べてもいい」と法律で決めてしまったのである。この点について、著者も国税庁・相談センターに確認を取っている。担当者も「テイクアウトで買って店内で飲食しても問題ありません」という回答だった。財務省も安倍首相に法案の内容を説明しているはずだが、首相の答弁とは食い違いが出てきている。
本来、実務の運用細則であるQ&Aの発表は急ぐことはなかった。安倍首相が増税を決めてからでも遅くはないのだ。事業者は最終的に決まらなければ動きようがない。そこまでして財務省が急いだのは、とにかくできるだけ既成事実をつくって、「今さら増税を延期することはできませんよ」と言いたかったのだろう。
「格好の言い訳」
しかし、潮目は変わった。今月発生した熊本地震で「増税延期」に一気に加速しそうだ。安倍首相にすれば、言い方は悪いが「格好の言い訳」ができた。地震の規模からすれば、東日本大震災に匹敵するほどである。熊本、大分両県をはじめとして、九州経済界に与えた打撃は計り知れない。ゴールデンウィーク商戦にも暗い影を落としそうだ。