国土交通省は、タクシーの初乗り運賃を短距離で安くする実証実験を東京都内で実施する。期間は7月から2カ月間。東京23区で「2キロメートル730円」という現在の初乗り運賃を、実験では「1.16キロメートル460円」とする。初乗り後の料金加算ペースは90円刻みで上昇して、2キロで現行の初乗り運賃と並ぶ。2キロ以上乗った場合は、現行と同料金になる仕組みだ。
初乗り730円という東京のタクシー料金は、海外からの観光客が驚くほど高い。米ニューヨークのイエローキャブの初乗り料金は2.5ドルで、日本円に換算すれば300円程度だ。
短い距離で利用しやすくすることによって、訪日客などの利用拡大効果を調べる。オリンピックが開催される2020年までに初乗り運賃を引き下げる狙いがある。17年4月から1キロメートル強で400円台の初乗り運賃になる見通しだ。
タクシー業界は厳冬期だ。小泉純一郎政権下の02年の道路運送法改正による規制緩和で新規参入が容易になった。これにより、07年にはタクシー会社の数は規制緩和前の1.7倍にあたる1.2万社、25万台だった車両台数は27.3万台に増加した。しかし、規制緩和にもかかわらず、輸送人員や営業収入の長期低落に歯止めがかかるどころか業績が悪化した。
危機感を持った国交省は08年に規制強化に転じ、タクシーの台数調整に乗り出した。その結果、14年には車両数は24.3万台に減った。それでも、輸送人員と営業収入の右肩下がりが続いた。バブル期に33億人を超えていた輸送人員は16億人と半分以下に減り、2.7兆円あった営業収入は1.7兆円と1兆円の減収になった(国土交通省調べ)。
そのため、国交省は料金の値上げと減車に乗り出した。14年1月に改正タクシー特別措置法が施行され、行政が割安運賃の会社に値上げを命じたり、余剰地域では減車要請が行われたりした。
しかし、これに反発が起きた。格安料金で営業していた会社が国を訴えた裁判で、国の敗訴が相次いだ。大阪地裁は割安運賃を採用するエムケイ(京都市)の主張を支持し、国の運賃変更命令に待ったをかけた。エムケイは神戸では初乗り570円で営業していたが、この司法判断がなければ、650円に値上げしなければならなかった。
減車要請はタクシー会社にとって死活問題で、実現はなかなか難しい。そこで打ち出したのが、初乗り運賃の値下げである。実験で訪日客の利用や収益の増加を確認した上で、国交省は全国の都市部での初乗り運賃の引き下げにつなげたい考えだ。