歴史を振り返ってみると、国交省が行ってきた規制緩和や規制強化は、すべて空振りに終わっている。東京オリンピックまでに初乗り運賃の値下げを実現できるかは、甚だ疑問である。
大手は「初乗り400円台」に前向き
日本交通は4月5日、23区と武蔵野市、三鷹市を含む東京地区の運賃改定を国交省に申請した。初乗りの距離を1.059キロに縮め、運賃は410円。その後、237メートルごとに80円ずつ上がり、2キロで730円になる。
日本交通をはじめとする、会社の車両台数の1割を東京地区で保有する24社が同日、初乗りの距離を約1キロ、運賃を410円とする改定を国交省に申請した。
4月5日から3カ月以内に東京地区における車両台数の7割以上を保有する会社が同様の変更を申請し、国交省が認めれば地域全体の運賃体系が現在の2キロ730円から変更される。東京地区での初乗り距離の変更となれば、80年ぶりのことだ。
早ければ17年春にも初乗り400円台が実現することになる。高齢者や子供連れの女性客に「ちょい乗り」を促す狙いだが、4月から食料品などは再び値上げラッシュとなっており、サイフの紐はきつくなるばかりだ。しかも来春には消費税増税も予定されており、見通しは不透明だ。
「大日本帝国」の支配構図が崩れた
タクシー業界は営業収入の長期低落傾向が進むなかで、中小業者の乱立、運転手の高齢化という深刻な構造的問題も抱えている。そこで生き残りをかけた合従連衡に拍車がかかることになる。
東京都内のタクシーの大手4社を「大日本帝国」と呼ぶ。大和自動車交通、日本交通、帝都自動車交通、国際自動車の頭文字の「大」「日本」「帝」「国」をつなげた表現だ。
太平洋戦争中、軍部が使うのに便利なように東京のタクシー会社は4社に統合させられた。戦後、それらが現在の大手4社となった。4社は、東京だけでなく日本を代表する大手。業界団体の会長は4社の社長から選ばれるのが慣例になった。
規制緩和が進んだ時期に大日本帝国への寡占化が進んだといっていいだろう。タクシー業界の盟主、日本交通はグループ化を進めた。買収による子会社化や業務提携により、1800台だった保有台数が現在はタクシー・ハイヤーを合わせて5289台になった。
16年3月末に大阪市内で約400台のタクシー・ハイヤーを運行する、さくらタクシーを買収し、完全子会社にした。日本交通が同業を買収するのは24件目だ。台数ベースでは、さくらタクシーが過去最大となる。さくらタクシーの買収によって関西圏に本格進出し、収益基盤を強化する狙いがある。