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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

日本、債務がGDPの4倍で財政破綻か…銀行預金が無価値化、ビットコインが資産防衛手段

文=小黒一正/法政大学経済学部教授
日本、債務がGDPの4倍で財政破綻か…銀行預金が無価値化、ビットコインが資産防衛手段の画像1「Thinkstock」より

 経済学では、将来の債務残高(対GDP)の先行きを評価する重要かつ有名な命題がある。それは「ドーマーの命題」と呼ばれるもので、詳しい説明や式の証明は省略するが、名目GDP成長率がプラスの値nで、一定に維持する財政赤字(対GDP)をqとすると、債務残高(対GDP)の収束値は初期時点の債務残高(対GDP)には依存せず、以下の値となる。

・債務残高(対GDP)の収束値=q/n
 
 たとえば、上記の※式において、財政赤字(対GDP)が3%(q=0.03)かつ、名目GDP成長率が2%(n=0.02)のとき、債務残高(対GDP)の収束値は150%(q/n=1.5)となる。

 では、少子高齢化や人口減少が進む現実の日本経済において、この「ドーマーの命題」を適用すると、将来の債務残高(対GDP)の行き先をどう評価できるだろうか。2000年代の名目GDP成長率は概ねゼロ、また、内閣府の中長期試算(2016年1月公表)では、楽観的なシナリオである「経済再生ケース」でも、23年度の財政収支(対GDP)はマイナス4.4%となっている。

 このため、かなり甘く見積もって、財政赤字(対GDP)を4%(q=0.04)かつ、名目GDP成長率を1%(n=0.01)と評価しても、債務残高(対GDP)の収束値は400%(q/n=4)となってしまう。そもそも、債務がGDPの4倍に膨らめば財政が持続不可能に陥るのは明らかであるが、その前に財政破綻する可能性のほうが高いと思われる。

 他方、「日本銀行国債を買えば財政破綻を回避できるのではないか」という意見もあるが、数カ月前の「日経ビジネスオンライン」の連載コラムでも説明した通り、日銀が国債を買い切っても、国民負担なき財政再建は不可能である。

 この関連で、「国債をすべて購入してインフレが起きないなら、毎年発行される国債を購入して、さらには減税して国債を発行し、それを購入することも可能で、無税国家になれる。そんなことはあり得ない。これは矛盾だから、必ずその前にインフレになる」という「バーナンキの背理法」があるが、バーナンキの背理法は、最終的に発生するインフレが制御可能であることは何も保証しない。最悪のケースでは、財政インフレが発生し、日本円が毀損する結果、我々が銀行に預けている預金などが実質的に無価値になる可能性もある。

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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