ソニー頼みの綱・半導体事業、地盤崩壊の危機…世界1位陥落か、また市場変化に乗り遅れ
ソニーのCMOSセンサへの期待
現在、日本の半導体産業において世界とまともに戦うことができているのは、東芝のNANDフラッシュメモリと、ソニーのCMOSセンサの2つである。CMOSセンサとは、スマートフォン(スマホ)等のカメラなどに使われる画像センサの一種である。
東芝は昨年発覚した粉飾会計の影響で、2016年3月期の連結決算で7191億円の巨額赤字を計上するに至った。東芝の事業のなかでは収益源だった東芝メディカルシステムズを6655億円でキヤノンへ売却したにもかかわらず、この体たらくである。今後のNANDフラッシュメモリの生産に、赤信号が灯った。
一方、ソニーのCMOSセンサは、米アップルのiPhoneに採用されたこともあって、売上高シェアで世界一を独走中である。アナリストやジャーナリストのなかでは、売上高で「ソニーが東芝を抜くのではないか」と予測する人が出てくるほど期待が高まっている。
しかし、CMOSセンサの売上高シェアが世界一であっても、一抹の不安がある。ソニーはハイエンドには強いが、ローエンドではまったくシェアがないからだ。
その上、今後の展望を考えると、売上高世界シェア1位の座も安泰ではない。というのは、自動運転車やロボットの普及に伴って、CMOSセンサが見る主体が「ヒトからマシン」へパラダイムシフトしようとしているからだ。
本稿では、ソニーのCMOSセンサの現状とその展望を論じたい。
2010年時点のソニー
筆者は、2010年にソニーの厚木研究所(神奈川県)で講演した。そのとき、ソニーのCMOSセンサの将来に不安を感じた。09年時点におけるソニーのCMOSセンサの売上高シェアは22%で世界一であったが、ユニット(個数)シェアはたったの4.7%しかなかったからである(図1)。これは、ソニーが単価の高いハイエンド製品しかつくっていなかったことを意味する。
筆者は講演で、日本の半導体メモリDRAMが「イノベーションのジレンマ」によって撤退に追い込まれたことを説明した。かつて、日本半導体メーカーはメインフレーム用に25年保証の高品質DRAMを製造して、DRAMの世界シェア80%を占めるに至った。ところが、コンピュータ業界にパラダイムシフトが起き、メインフレームに代わってPCが上位市場となった。