セブン&アイ鈴木前会長を放逐した伊藤邦雄とは何者?社外取締役が大企業に激震呼ぶ時代に
セブン&アイ・ホールディングス(HD)の株主総会が5月26日に開かれ、鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)が取締役を退任し、名誉顧問となった。24年ぶりのトップ交代となった引き金は、新たに社長に就任した井阪隆一氏の処遇をめぐっての年初来の出来事だったのは周知のとおりである(本連載『老害化した天才経営者・鈴木セブン&アイ会長、なぜ退任に?一介の雇われ経営者の末路』)。
鈴木氏が策動した井阪氏更迭の動きに対して、イトーヨーカドー創業家の伊藤家やアクティビスト・ファンド(物言う投資家)である米サード・ポイントが批判的となった。しかし、セブン&アイHDの内部で正式なガバナンスとして機能したのは、2人の社外取締役がいる指名・報酬委員会であった。同委員会で否決された案件を、鈴木氏はあえて4月の取締役会に諮ったのだが、ここでも社外取締役の伊藤邦雄氏(一橋大学特任教授)の「無記名投票にゆだねよう」という動議の結果、否決されたことからて鈴木氏の急転直下の辞任会見へと展開した。
企業ガバナンスの本家としての矜持
伊藤教授は実は単なる経営学者ではない。経済産業省が取り組んだ「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトで座長を務め、2014年秋に「最終報告書(伊藤レポート)」をまとめた。伊藤レポートは日本における企業ガバナンスへの本格的な提言として、海外でも高い評価を得た。
また、1月に日本取締役協会が初の「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」としてブリヂストンを大賞とするなど5社を選出したおりにも、審査委員に名を連ねている。日本のコーポレート・ガバナンスにおける理論面の総本山みたいなお立場の人だ。
企業ガバナンスについて強い信念を持つ伊藤教授だからこそ、セブン&アイHDのカリスマだった鈴木氏が提示した井阪更迭案件に対しても、強い姿勢で臨めたのだろう。会社側がもし「お飾りで名目だけの」社外取締役としての役割を期待して伊藤教授を招聘していたのなら、その当ては外れたことになる。
社外取締役は、ビジネスの内容に精通する必要はない
日本取締役協会の会長、宮内義彦氏(オリックス シニア・チェアマン)は社外取締役の役割について次のように述べている。