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航空経営研究所「航空業界の“眺め”」

ANA、「JAL越え」達成でナショナルフラッグに…「不公平な競争」30年の死闘、だが…

文=牛場春夫/航空経営研究所副所長
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ANA、「JAL越え」達成でナショナルフラッグに…「不公平な競争」30年の死闘、だが…の画像1ANAの航空機(撮影=編集部)

 3月3日、全日本空輸が国際線就航30周年を迎えた。1986年に東京-グアム線就航を皮切りに始まった同社悲願の国際線は、現在では世界39都市59路線(16年3月3日時点)に拡大し、この間に同社の国際線累計旅客数は1億人を突破した。

 長い間、業界で「航空憲法」ともいわれてきた国による事業分野の取り決め、いわゆる「45/47体制」の下で、国際線運営が日本航空だけに許され、国内線のみに規制されてきた全日空にとって、国際線30周年は感慨深いことであろう。規制撤廃を求めて止まぬ運動を展開し、国際線後発企業ながらここまで見事に成長させた努力は並大抵ではなかったと想像できる。

 全日空の国際線規模は、2016年3月期の決算短信によれば、旅客収入5156億円で、日本航空の4487億円を15%上回る。旅客数816万人、有効座席594億座席キロ(航空会社の生産量を表す単位で、航空機に装着してある1座席に飛行距離を掛けた数値。Available Seat Kilometersの頭文字を取ってASKとも表記される)。日本航空の808万人、483億座席キロを優に上回る。全日空は名実ともにわが国の“フラッグキャリア”となった。そして同社の中期計画では、20年度までに国際線を1.4倍に拡大する目標を立てている。これは12年度の規模の2倍にも相当する。

 業界では、全日空の1999年のスターアライアンス加盟が国際線成長への原動力になったといわれている。一方、日本航空のワンワールドアライアンス加盟はそれから8年遅れた07年4月。会社更生法適用を申請した10年1月のわずか2年9カ月前だった。世界アライアンス加盟という選択肢しかなかった企業と孤高を楽しむ余裕のあった企業との差といえばそれまでだが、「日航に追い着け! 追い越せ!」という全社挙げてのひたむきな闘争心を維持し続けたことはあっぱれというほかない。

全日空の主張は今も「不公平な競争環境」

 さて、その全日空が「日本航空との間で公平な競争環境が保たれていない」と継続して主張している。公金3500億円を使って再生した日本航空と不公平な競争を強いられるというのが言い分だ。

 日本航空は多額の繰越損失の計上のために、再生後、繰越欠損金が消滅するまでの9年間、数千億円の法人税支払いが免除されるという税制の恩恵を受けている。15年4月の「所得税法改正等の一部を改正する法律」及び「地方税法等の一部を改正する等の法律」により、大法人の控除限度(所得の80%)は15年度に「所得の65%」に、17年度以降は「所得の50%」に変更された。同時に欠損金も繰越期間が9年から10年に延長された。

 公金を使って再生した日本航空と、自力でがんばっている全日空の間に不公平な競争環境が存続するというのが全日空の主張だ。

 12年8月、国土交通省航空局は「日本航空の企業再生への対応について」(8月10日ペーパー)と題する文書を発表。「公的支援によって、航空会社間の競争環境が不適切に歪められことがあってはならない」として、JALグループの12~16年度中期経営計画が終了するまでの間、日本航空の投資と路線計画について監視することとなった。

 そして、競争環境是正の具体策として12年11月には羽田空港の国内線発着枠を全日空に8往復、日本航空には3往復、さらに16年4月の羽田空港の米国路線発着枠を全日空に4往復、日本航空には2往復それぞれ配分した。結果として、この4年間でドル箱の羽田発着枠が、全日空に国内国際線合計で12往復と、日本航空の5往復の2.4倍が配分された。

 16年3月期決算で全日空は過去最高の当期純利益785億円(利益率4.4%)計上した。一方、日本航空は1809億円(同13.5%)と全日空の2倍以上の利益を計上した。両社とも燃油費の大幅下落がこの好決算を生み出したのだ。確かに損益計算書の「法人税等合計」は、全日空の524億円に対して、節税効果を享受できる日本航空は263億円とおよそ半分で済んでいる。そして有効座席キロ当たりの旅客営業費用【編注1】は、全日空9.3円に対して日本航空は8.8円となり日本航空が全日空を5.4%下回る。

日本航空のリストラ

 日本航空は「大きな利益計上は、公的支援の効果もあるが、自身のリストラによるコスト低下によるところが大部分を占める」と反論しているが、ここで日本航空のリストラと企業再生の道程を今一度振り返ってみたい。

・事業規模の縮小:国際線▲40%、国内線▲30%
・航空機数:▲30%、人員削減▲33%
・年間平均給与:▲28%(単体)
・企業年金削減(現役約▲50%、OB約▲30%)
・売却・統廃合による子会社削減:▲45%
(以上、数値は国土交通省12年11月資料)

 まさに血の滲むようなリストラが断行された。そして金融機関には総額5215億円の債権放棄を、株主には100%減資を求め、つまり破綻企業・債権者・株主の三者が痛みを分かち合って、10年1月19日に企業再生支援機構(現:地域経済活性化支援機構)から3500億円の出資を申し入れ、裁判所に会社更生法に基づく更生手続開始の申し立てが行われた。

 それから1年2カ月後の11年3月28日に更生手続が終了。驚くべきV字回復だった。翌12年9月19日東証一部に再上場し、企業再生支援機構は保有株すべてを売却。同機構、すなわち国はわずか2年半で3000億円ほどの売却益を得た。

 公的資金を投じて企業再生した例としては、かつてない高収益案件となった。日本航空は、立派に国家経済に貢献したともいえる。公平な企業評価が一目でわかる株式市場では、日本航空の時価総額が1兆3891億円(16年5月22日時点)となり、全日空の1兆1134億円を25%上回る。

 日本航空のリストラには、もうひとつ忘れてはならないことがある。リストラによって整理、自発退職したパイロット、客室乗務員、整備員、地上職などの日航社員たちが、12年から始まった日本の本格的LCC(格安航空会社)市場の立ち上げに貢献したことである。

いま求められる「協調」

 全日空は、日本航空に対する優遇措置についていまだに「不公平」だと言い続けているが、同社の主張には日本の国際航空体制がどうあるべきかという視点が欠落している。

 政府は訪日外国人(インバウンド)数を20年までに4000万人、30年には6000万人にする観光立国政策を掲げている。島国である日本は、海路か空路しかインバウンドの「足」はない。海路は15年にクルーズ船寄港の大幅増加で100万人を突破した。20年には500万人を目標としているものの、この数は6000万人の内のわずか10%未満。大量のインバウンドを海外から運んでくるのは、ほとんど空路である。

 しかし、日本国籍の航空会社全社の日本発着国際線便数シェアは25%にすぎず、諸外国に比べて極めて低い。たとえば、インバウンド旅客の約70%を構成する中・香・台・韓の4カ国/地域では、自国/地域の発着便における自国/地域の航空会社のシェアがいずれも50%を超える。

 また、世界の国際線航空会社の供給量ランキングで日本はひとり負けだ。急ピッチで国際線を拡大している全日空でさえ20位、1983年に国際線輸送量で世界一を誇った日本航空に至っては26位とまったく振るわない(CAPA データより)。

 今、日本航空と全日空は国内でいがみ合っている場合ではなく、国際競争のサバイバルにもっと目を向けて、インバウンド6000万人を達成すべく自国の国際路線網を拡大し、観光立国政策に貢献していくべきときなのではないか。両社はもっと協力し合って日本の航空輸送業の発展に貢献すべきである。
(文=牛場春夫/航空経営研究所副所長)

【編注1】座席キロ当たりの旅客営業費用の算定に当たっては、貨物・郵便とその他の営業収入を、これらのセグメントの収支が均衡しているとして、営業費用から全額控除して計算。両社の収支比較については、航空経営研究所のHPを参照

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