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新将命「ビジネスの原理原則」

ソフトバンク、孫社長の「誤算と変心」…なぜアローラ氏は梯子を外されたのか?

文=新将命/国際ビジネスブレイン代表取締役社長
ソフトバンク、孫社長の「誤算と変心」…なぜアローラ氏は梯子を外されたのか?の画像1ソフトバンクグループ、孫正義社長(右)とニケシュ・アローラ氏(ロイター/アフロ)

 企業経営者、特に社長にとっての最後の通信簿は「引き際の潔さ」である、と私は考えている。業績を上げて企業価値を高めることにより「人よし、我よし、世間よし」という近江商人の経営訓、換言すればCSR(企業の社会的責任)を果たすことは当然の責務だが、なすべきことをなした後、惜しまれながら身を引く人には人間としての魅力を感じざるを得ない。古くはホンダの本田宗一郎氏、近くはジャパネットたかたの高田明氏が潔い辞め方をした好例として挙げられる。

 医師で政治家の後藤新平の言葉に「三流の人は金を残す。二流の人は事業を残す。一流の人は人を残す」とある。人とは自分が辞める際にバトンタッチをするに足る後継者という意味である。そもそも企業とはゴーイング・コンサーン(継続する会社)でなければならない。そのためには後を任せることの出来る後継者を育成しなければならない。

 ところが、程度の差こそあれ、人間には誰でも自惚れというものがある。会社を大きくして成長させればさせるほど「私でないとダメだ」「私がいないとダメだ」という我執が生まれてくる。結果として社長の座にしがみつき、後進に道を譲ろうとしない。愛社精神が強く、成果に対するコミットメントが強ければ強いほど、「自分はまだできる」「自分しかいない」と思い込む。なかなか後継者に禅譲しようとはしない。

 一度は身を引こうと思っても我執が邪魔をしてなかなか決断ができない。いつまでもトップの座にしがみついていて老醜をさらすことになる。経営者にとってげに難しいのは、老醜の愚ではない。有終の美である。

美しい身の引き方は難しい

 直近の例を挙げれば、ソフトバンク孫正義社長のケースがそれである。一度は自分の後継者として指名し、64億7800万円の報酬を支払うという条件で後継者指名したばかりのニケシュ・アローラ氏に顧問という名だけ与えて、退任に追い込んでしまった。

 この変心の真の理由はわからない。孫氏の説明によると「数年のうちにグループトップの指揮を執りたい意向だったが、両者の時間軸にずれができた」ということだが、この言葉には納得性も説得性もない。経営の常識からいえば、後継者を採用した場合は、何年以内とか何年後に禅譲という基本中の基本ともいうべき話し合いと合意は事前にできているはずである。「時間軸のずれ」というのは後追い的なこじつけ以外の何物でもない。

新将命

新将命

株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなど、グローバル・エクセレント・カンパニー6 社で社長職を3 社、副社長職を1 社経験。2003 年から2011 年3 月まで住友商事のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。「経営のプロフェッショナル」として50 年以上にわたり、日本、ヨーロッパ、アメリカの企業の第一線に携わり、今もなお、さまざまな会社のアドバイザーや経営者のメンターを務めながら長年の経験と実績をベースに、講演や企業幹部研修、執筆活動を通じて国内外で「リーダー人財育成」の使命に取り組んでいる。

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