三菱自動車工業は6月24日、千葉・幕張メッセで株主総会を開いた。益子修会長が続投することに対して「CEO(最高経営責任者)が、なぜ全責任を取って辞任しないのか!」との批判の声が上がった。「日産自動車との提携の道筋をつけるため。新体制が発足するまで現職にとどまる」と述べ、株主の理解を求めたが冷ややかな空気が会場を覆った。
総会では益子氏の取締役再任や日産で副社長を務めた山下光彦氏の取締役就任などが承認されたが、相川哲郎社長は引責辞任した。総会後の取締役会で、益子氏が会長と社長を兼務し、山下氏が開発部門担当の副社長に就くことが決まった。
三菱自は、10月をめどに日産から議決権ベースで34%の出資を受け入れる。その後、年内に臨時株主総会を開き、日産から会長を含む取締役4人を受け入れ新体制がスタートする予定だ。
「日産のカルロス・ゴーン社長の“操り人形”」(三菱グループ幹部)との見方が出ている益子氏は、10月以降も取締役として残ると取り沙汰されている。というのは、日産が三菱自を傘下に組み入れた狙いがはっきりしているからだ。
日産は、これまで三菱自からOEM(納入先ブランドでの受託製造)供給を受けていた軽自動車を自主生産する工場を手に入れる。さらに、三菱商事が持つ東南アジアの自動車の販売網に日産の自動車を乗せることで、弱点だった東南アジア市場のテコ入れを図れる。
世界販売1000万台を目標にする日産にとって、三菱商事の販売網は喉から手が出るほど欲しい。三菱商事とのパイプをつなぐためには、三菱商事出身の益子氏の続投が望ましいのだ。社長には、三菱商事出身で今回副社長に昇格した白地浩三氏が就くとの見方が有力だ。一方で、益子氏が社長兼CEOを続投する可能性もゼロではない。
三菱自の前途は多難だ。2017年3月期の決算は、1450億円の赤字となる見込み。燃費を偽装した軽自動車4車種のユーザーへの賠償金が500億円、日産の逸失利益の補填や部品メーカーへの補償などで1000億円を計上する。「これ以上、損失は出ない」(黒井義博常務執行役員)としているが、三菱ブランドの毀損に伴う販売減がこれから本格化するだろう。
ライバルメーカーのトップは、「値引きで販売台数を確保する“安売り作戦”を敢行するとみられるが、国内のディーラー網が崩壊するリスクが高まっている」と指摘する。
三菱自は2月、20年までの商品戦略を発表したばかりだ。多目的スポーツ車(SUV)と電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド(PHV)に開発を集中し、17~20年度までに14車種を投入する計画だ。だが、計画の実行部隊に日産からトップが送り込まれたことで、計画の抜本的な変更は避けられないだろう。その結果、タマ(新車)が不足する懸念が強まっている。