石油元売り大手、出光興産と昭和シェル石油の合併に向けた協議が迷走している。出光創業家が反対しているためだ。しかし、同社の長期的発展の視点からみると、この反対は果たして正しいのだろうか。逆にここで大株主としての“度量“を示せば、その世評は高まるだろう。
出光の月岡隆社長と昭和シェルの亀岡剛社長は、10月13日に共同記者会見を開き、来年4月としていた合併の時期を延期すると発表した。出光創業家が現計画での合併に反対しているためとした。
出光による英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルからの昭和シェル石油株取得は、従来どおり10~11月を予定している。2017年4月に予定されていた合併は延期するが、株式取得に向けた公正取引委員会の企業結合審査は続いているという。
出光の創業家が頑なに反対
ガソリンや石油の市場規模縮小が続くなか、業界各社は合従連衡により規模を確保・増大することで生き残りを図っている。民族派である出光と外資の昭和シェルが合併を発表したのが、15年11月のことだった。“資本の国籍”は違えど、現下の業界地図からは妥当な組み合わせとみられた。
ところがその発表の翌月、出光創業家の出光昭介氏が反対を表明して、本合併案件は迷走し始めたのである。
89歳の昭介氏は、出光創業者である故出光佐三氏の長男で、同社の第5代社長、そして会長を経て01年に代表権のない名誉会長に退いている。昭介氏個人としての持ち株比率は1.21%だが、創業家関連で3分の1以上の株式を保有し、合併が諮られる株主総会が開かれれば、グループとして拒否権を行使できるとみられている。
合併への対抗策として、本年8月には昭和シェル株40万株を取得するなど、昭介氏の両社合併への反対の意思は固いとみられるが、代理人として弁護士の浜田卓二郎氏を立て、自らは表に出てこない。館長を務める出光美術館は出光本社内にあるが、本案件について出光の現経営陣と面談したのは1回にとどまっているとされる。
大家族主義の社風が出光の誇りだ
私は1984年に1年間、出光本社とビジネスでかかわったことがある。当時は米シアーズのプロジェクトを代表する立場だったので、出光側の経営中枢チームと仕事をさせてもらった。その出光チームには創業家の方もいたので、総帥だった昭介氏について尋ねると、「社長は米ハーバード大学卒業で」と誇らしげな顔で告げられ、肝を潰した記憶がある。