日本時間の10月7日午前8時過ぎ、金融市場に緊張が走った。英ポンドが米ドルに対し6%程度急落したのである。まだ東京市場での取引が始まっていない時間帯であっただけに、多くの投資家にとってポンドの急落は寝耳に水ともいえる動きだった。
ポンド急落の背景には、英国のEU離脱=ブレグジットへの懸念がある。この時、海外の通信社が「欧州首脳が英国の離脱交渉において一切の譲歩をしないと強硬な姿勢を示した」と報道した。これが、英国がEU単一市場へのアクセスを喪失し、経済の混乱につながるとの不安心理を高めた。ポンド急落は政治のリスクに影響された。
世界全体に目を向けると、欧州の政治動向に加え、米国の大統領選挙が近づき、投資家は討論会の動向などに神経をとがらせている。1回目の討論会の結果、世論は民主党のヒラリー候補が優勢と評価したが、まだ予断を許さない。歯に衣着せぬ物言い、国際社会の常識や人権をも無視した過激発言を繰り広げてきた共和党のトランプ氏が、同党の最終候補に残った事実は軽視できない。
6月23日のEU離脱が選択された英国国民投票のように、政治が想定外の方向に進む可能性は排除できない。これからの政治情勢の変化は、世界経済の行方に大きな影響を与えることは間違いない。“政治の季節”が本格的に始まった。
世界に広まる自国優先の政治
現在、主要国の政治は、長引く景気低迷に対する国民の不満を抑えるため、自国優先の姿勢を強めている。その結果、各国の政治は目先の支持確保を優先し、本来必要な構造改革など、中長期的な観点での経済再生への取り組みは二の次という状況になりつつある。
端的な例が中国だ。中国では需要が低迷し、過剰な生産能力の解消が不可欠だ。需要を喚起するためには構造改革を進めて生産性の落ちた業界の再編を進め、成長産業に労働力を移していく必要がある。問題は、こうした取り組みが失業などの痛みを生むことだ。ときとしてそれは、社会情勢の不安定化につながる恐れもある。
そこで中国は、規制緩和などを通した住宅市場の高騰で景気を支えつつ、国威発揚のために海洋進出を重視している。来年には共産党の党大会も控える。習近平国家主席は執行部メンバーの交代を機に、自身の支配力を引き上げたいと考えているはずだ。そのため、共産党指導部は改革を重視しながらも、本心では覇権強化に腐心している。