がん免疫治療薬「オプジーボ」の薬価引き下げ議論が活発化している。厚生労働省は2017年度にオプジーボの薬価を臨時に引き下げるが、値下げ幅を当初の「最大25%」から拡大する方針だ。また、政府の経済財政諮問会議からは50%以上の値下げを要求する声も上がっている。
オプジーボの薬価をめぐっては、全国の医療関係者でつくられる全国保険医団体連合会(保団連)政策部前事務局小委員の小薮幹夫氏が、9月の記者会見で米英にくらべて2.5~5倍の高額になっていることを指摘。「途方もなく高い薬価を、一刻も早く正常化する必要がある」と訴えていた。
オプジーボは免疫力を高めることにより悪性腫瘍を攻撃する新しいタイプの抗がん剤で、京都大学名誉教授の本庶佑(ほんじょ・たすく)氏の研究がきっかけで開発され、日本の小野薬品工業が製品化している。
いわゆる「免疫療法」は自由診療で効果が不確かなものも多いが、オプジーボは薬事承認された確かな薬品であり、これまでの治療で効果がなかった患者を救えるようになることが期待されている。
一方で、その高額さが議論を巻き起こしている。たとえば、肺がんの成人男性(体重60キロ)が1年間使うと、薬剤費は約3500万円に達すると見込まれているのだ。
日本赤十字社医療センター化学療法科部長の國頭英夫氏の推計では、5万人の潜在患者がオプジーボを1年間使用すると薬剤費は1兆7500億円にも達する。國頭氏は、厚労省の審議会などで「たった1剤が出たことで、国家が滅ぶことにならないか」と危惧している。
厚労省が9月に発表した15年度の医療費(概算)は41兆5000億円で、そのうち7.9兆円が調剤医療費(薬剤費)と推計されている。たった1剤で、その薬剤費が約20%増えることになり、社会保険料と税金でまかなわれている公的保険が破綻しかねない。
不透明すぎる薬価決定のプロセス
国民皆保険制度がある日本では、どんなに医療費がかかっても自己負担は1~3割で、高額になった場合も高額療養費制度によって一定の負担で済む。また、生活保護受給者は医療費が無料。病気になっても誰もが安心して医療を受けられるという点では、世界に誇る制度だ。それゆえ、医師や薬剤師の技術料、薬剤料は国の審議会によって定められている。
オプジーボも、適切なプロセスで薬価が決められていたのであれば、ここまで大きな問題にはならなかったかもしれない。オプジーボは当初、患者数の少ない皮膚がんの一種(想定患者数470人)で保険適用が決まったため、多額の開発費を回収できるように高い薬価がつけられた。しかし、その後すぐに同1万5000~5万人の肺がん、同4500人の腎臓がんにも適用が拡大されたという経緯がある。