恫喝ともいえるトランプ次期米大統領のツイートに、豊田章男トヨタ自動車社長は迅速に対応した。デトロイトで開催中の北米自動車ショーのタイミングに合わせ、豊田氏は「トヨタは今後5年間で100億ドル(1兆1600億円)を米国で投資する」と熱弁をふるったのだ。それが功を奏したのか、11日のトランプ氏の記者会見ではトヨタへの言及はなかった。
しかし、トランプ氏の発言内容の行間を読むと、フォード、ゼネラルモーターズ(GM)、トヨタなどの大手自動車メーカーを恫喝した彼の本音が浮かび上がってくる。「これだけ言えば企業はメキシコに工場を移転することもないだろう」と考えてのことだ。ビジネスの交渉では日常茶飯事の言葉による「はったり・威嚇」を、英語では「Bluff(ブラフ)」という。トランプ氏の政治手法がいまだにビジネス界の手練手管に頼っていることが見え隠れする。
そればかりか政治家として不慣れもある。空調設備メーカーのキャリアがメキシコ移転をやめたことを「素晴らしい決断」だと称えつつ、「(移転計画から)1年半もたっての決断はすごい。工場建設が進んでからキャンセルするのは難しいからな」と余計なことを言っている。フォードも16億ドルの工場建設をキャンセルしたが、ちょうど工場予定地の整地作業を終え建屋の骨組みを始めたところだった。トヨタも本格的な工事を始める寸前であり、トランプ氏は工事が中止しやすい案件を選んでターゲットにしたのだろう。
百戦錬磨の自動車メーカー
しかし、トランプ氏が相手にしたのは、百戦錬磨の自動車メーカーだ。実は各社はトランプ氏の上手(うわて)をいった。トヨタが言う金額は「これまでの過去5年間の投資額と変わらず、特にトランプ氏の要請に応えたものではない」とトヨタ米国法人のジム・レンツ社長が記者に漏らしている。トヨタが言う「5年間で100億ドル」という金額も、GMが今後5年間で投資する金額とほぼ同じで、大手自動車メーカーとしては特に巨額ではない。