三越伊勢丹ホールディングス(HD)は3月7日、大西洋社長が退任し、後任の社長として杉江俊彦取締役専務執行役員が4月1日付で昇格すると発表した。石塚邦雄会長は6月の株主総会で代表取締役会長執行役員を退任する。
前日に大西社長の引責辞任が報じられた。後任が決まらないうちに社長退任が表面化したことで憶測が呼んだ。店舗閉鎖をめぐり、旧三越勢と旧伊勢丹出身者の対立が激化。三越出身の石塚氏が伊勢丹側のエース、大西社長と刺し違えたのではないかと噂された。
三越伊勢丹HDは7日午前、伊勢丹新宿本店近くの本社で社外取締役を中心とする指名報酬委員会を開いた。結論は、会長と社長の2トップを更迭。委員会の協議を踏まえ、その後の取締役会で正式に人事案を決議した。
現在の三越伊勢丹HDのボード(取締役)は、次のとおりだ。
代表取締役会長執行役員 石塚邦雄・三越出身
代表取締役社長執行役員 大西洋・伊勢丹出身
取締役専務執行役員(営業本部長) 松尾琢哉・伊勢丹出身
取締役専務執行役員(経営戦略本部長) 杉江俊彦・伊勢丹出身
取締役常務執行役員(業務本部長) 和田秀治・三越出身
取締役 槍田松瑩・三井物産顧問(元社長・会長)
取締役 井田義則・いすゞ自動車相談役(元社長・会長)
取締役 永易克典・三菱東京UFJ銀行相談役(元頭取・会長)
指名報酬委員会は社内2人、社外3人で構成されるとしているが、委員名は明らかにしていない。社内は代表権を持つ石塚会長と大西社長の2人、社外は槍田、井田、永易各取締役の3人と推定できるが、同委員会を仕切る委員長が誰なのかは公表されていない。
社内取締役の構成は、伊勢丹3人に対して三越が2人。伊勢丹が多数派を占めている。それにもかかわらず、大西社長は引責辞任に追い込まれた。何が起きたのか――。
大西社長の急激な改革に労働組合が音を上げ、辞任要求にまでエスカレートした。これを利用して、石塚会長が大西社長に辞任を迫る“クーデター”に発展したとの見方が強まっている。社外取締役たちは、先鋭化している伊勢丹と三越の社内対立を収めるには、喧嘩両成敗、つまり石塚会長と大西社長の退陣しかないと判断した。
伊勢丹主導の改革を継続させるために、経営戦略本部長の杉江氏を次期社長に起用した。2代続けて伊勢丹出身者が社長に就くが、実は杉江氏は「石塚会長に近い存在」(関係者)という見方もある。杉江氏は、大西社長が主導した不採算店の閉鎖など構造改革路線を補佐する立場だったが、実は石塚会長と気脈を通じていたというのだ。「今後は、社内融和、早期の混乱収拾を最優先させる」(同)という。
2トップの更迭劇は、メーンバンクの三菱東京UFJ銀行の意向が強く反映されたものと金融界では受け止められている。同行はお目付役として社外取締役を送り込んでいる。