足許の金融市場の動向をみると、先行きに関する楽観的な見方が増えつつあることがわかる。3月3日、米国では連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長が「米国経済は大きく改善し、物価安定と雇用最大化の2つの責務は達成されつつある」と景気に強気な見方を示した。これは議長が3月14~15日に開催される連邦公開市場委員会(FOMC:米国の金融政策を決定する会合)での利上げを念頭に置いていることを示唆している。
金融市場でも、FOMCで0.75~1.00%へ0.25ポイントの政策金利の引き上げが決定されるとの予想は90%を超える水準に達した。今後の経済指標の影響はあるものの、3月の利上げは既定路線化されつつある。イエレン議長以外のFRB高官の発言も、一様に“タカ派”(利上げなどの金融引き締めに積極的)に転じている。特に、2月下旬以降のタカ派発言は、FRBが金融市場に利上げが近いことを、なんとかして織り込ませようとする雰囲気すら感じられる。FRBがこれほどまでに利上げの準備にまい進しているのは、近年の米国の金融政策では珍しい。
なぜ、そこまでしてFRBが利上げに注力し始めたか、少し冷静に考えてみたい。
バブルの膨張を恐れるFRB
足許の米国経済を考える上で、最も重要なのは株式市場の動向だ。特に2月、NYダウ工業株30種平均株価は、12営業日続けて過去最高値を更新した。そのなかで、株価の価格変動率=ボラティリティーはリーマンショック後の最低水準に近づいている。多くの投資家が先行きの米国経済への強気な見方を持ち、株価の上昇を楽観し始めているようだ。FRBはこの状況が続き、資産価格が右肩上がりで上昇し続けた結果、急速かつ大幅な利上げが不可避になることを危惧していると考えられる。
2009年3月、米国株式市場はリーマンショック後の安値を付けた。その後、中国の財政出動や米国での“シェールガス革命”が米国株式市場の上昇を支えた。14年に入ると、米国の株価はリーマンショック後の安値から3倍程度の水準に達した。このタイミングで、徐々に米国株式市場でのバブル発生を意識する投資家は増えつつあった。
実際、歴史を振り返ると、数年間で株価が数倍に上昇すると、それはバブルであったことが多い。当時の米国経済に関して、経済の基礎的な条件=ファンダメンタルズは改善しており、慎重かつ緩やかに利上げを進めることはできると考えた投資家もいた。