2016年1月に世界初のLCC(格安航空会社)アライアンス「U-Fly」が誕生した。U-Flyには、中国コングロマリットHNAグループ(海南集団)のLCC4社と韓国の1社が参加している。そして同年5月には、アジア太平洋地域のLCC8社で構成するバリューアライアンスが設立された。
このバリューアライアンスには、日本のバニラエアが参加している。まるでLCCが、FSC(フルサービスキャリア)のグローバル・アライアンス(以下、 Gアライアンス)を真似ているかのようだ。最近では、LCCが急成長して世界の国際線航空旅客市場の10%以上の供給シェアを獲得しているので、FSCが慌ててLCCに対抗するためにLCCのベスト・プラクティス(最良の事例)を真似し、その反対にLCCがさらにシェアを拡大するためにFSCのそれを真似し始めているとしても不思議もない。
LCCとFSCのビジネスモデルの境界線がぼやけて始めて、ハイブリッド型の航空会社が出現しつつある。そこで今回は、本家のGアライアンスの現状を改めて調査してみよう。
Gアライアンスの本来的な目的
航空会社にとって、ネットワーク、つまり路線網が極めて重要な意味を持つ。路線網の大小が、航空会社の集客力を左右することになるからだ。特にマイレージポイント制度が導入されてからは、それを使える路線網のスケールの大小がこの制度の優劣のベースとなる。言い換えれば、マイレージが顧客の航空会社選択時の重要なメルクマール(基準)となっている。
顧客にとっては、A地点からB地点に飛んでいる航空会社よりも、A地点からB、C、D……とできるだけ多くの地点へ飛んでいる航空会社のほうが、便利で好まれるというわけだ。そして、航空会社1社単独では年間6億人ほどの世界の国際線航空旅客に対応して、世界の隅々まで飛んで行くことなどはできないので、複数の航空会社が提携してネットワークを拡大していくというのが、Gアライアンスの本来的な目的となる。
では、Gアライアンスの提携内容とはどんなものなのだろうか。
大まかにいうと、顧客利便性の増進と加盟航空会社の収支改善の2つで構成される。顧客利便性の増進では、「乗り継ぎサービス」「コードシェア」「マイレージポイント相互利用」などの提携がある。
収支改善では、増収のための共同運賃設定や販売促進活動に加え、コスト削減のための空港施設共同利用や燃料などの共同調達が挙げられる。乱暴にいえば、ネットワークをできるだけ拡大して「競争を排除して談合しよう」という話だ。本来、独占禁止法で禁止されているものが、なぜ許されるのかといえば、Gアライアンスによって顧客の利便性増進が約束されるからである。すなわち、少々の競争排除の弊害よりは、顧客利便性の増進のほうが大きく勝るという“エクスキューズ(弁解)”だ。
しかし、共同運賃設定やそれに付随する収入折半などが提携に含まれる場合は、競争を極力排除した限りなく談合に近い性質を有している。そこで、各国当局はこの種の提携の審査にあたっては、それが実施される路線の健全な競争環境が提携後にも必ず担保されることを認可の条件にしている。これは、競争法適用免除協定(ATI)と呼ばれている。
現在、世界には図表-1のとおり、3つのGアライアンスと冒頭述べた2つのLCCアライアンスが存在する。
全日空は1999年にスターアライアンスに、日本航空は2007年にワンワールドにそれぞれ参加した。1986年に国際線に進出した全日空が、いち早くアライアンスに参加してグローバル戦略を追い求めたのに対して、かつては日本のナショナルフラッグとして君臨し、83年には世界最大の国際線航空会社に躍り出た日本航空は、全日空に遅れること8年後の2007年になってやっと、ワンワールドに参加した。
現在のGアライアンスごとの国際線供給シェアは図表-2のとおり、西ヨーロッパと東南アジアが約60%、北米と北東アジアが約80%になっている。
Gアライアンスの地域ごとのシェアの違いは、それぞれの地域のLCC市場シェアの大小と関係する。LCCシェアが高いと、当然のことながらGアライアンスのシェアは低下し、その反対にLCCのシェアが低いとGアライアンスのシェアが上昇することになる。
ライアン航空やイージージェットが運航する西ヨーロッパや、エアアジアやライオンエアを抱える東南アジアなど、LCCのシェアが高い市場ではGアライアンスのシェアは58~60%と低くなる。逆にLCCシェアが12~13%と低い北米や北東アジアでは、Gアライアンスのシェアが79%と高くなる。このことからLCCの拡大が、いやおうなく競争を激化させて、Gアライアンスのシェアに大きな影響を及ぼしていることが読み取れる。
アライアンス破り
最近、このGアライアンスに少し異変が起きている。加盟航空会社の“アライアンス破り”が増えているのだ。Gアライアンスよりも、2社間提携が優先され始めている。その理由は、Gアライアンスの加盟航空会社数が多くなってくると、どうしてもメンバー間の利害調整が難しくなり、自社の利益追求が希薄化するケースが増えてしまうからだ。
また、Gアライアンス設立後の10年間に、大手航空会社間のM&A(合併・買収)が相次ぎ発生したことも影響しているといえるだろう。欧州では、以下組み合わせのM&Aが進んだ。
・エールフランス+KLM
・英国航空+イベリア航空+エアリンガス
・ルフトハンザ+スイス航空+ベルギー航空+オーストリー航空
米国でも、以下のM&Aが進んだ。
・デルタ+ノースウエスト
・ユナイテッド+コンチネンタル
・アメリカン+エアウエスト
こうして欧米両地区でそれぞれ“ビッグ3”が誕生した結果、Gアライアンス内のビッグ3の影響力が強くなり過ぎて、アライアンス全体の結束力を弱めてしまっている(米国ではビッグ3+1(=サウスウエスト+エアトラン)ともいわれている)。
要は、Gアライアンスのマルチ提携よりも、直接自社の利害を追求できる2社間提携のほうが、メリットがずっと大きくなっている。その具体例を挙げれば、以下のように枚挙にいとまがない。
・ワンワールド加盟のカンタス航空(QF)は2013年4月に、豪州欧州路線(カンガルー・ルート)のコードシェア提携で、長らく提携してきた同じくワンワールドの英国航空(BA)を袖にして、どこのアライアンスにも属していない中東のエミレーツ航空(EK)に乗り換えた。そして、この路線の経由地をシンガポールからドバイに変更した。
・中国国際航空(CA)は、ワンワールドのキャセー航空(CX)と株式相互保有協定を締結しておきながら、07年にスターアライアンスに加盟した。この加盟には、CAの国際線競争力強化の意図が込められている。
・スカイチームのデルタ航空(DL)は15年5月、同じスカイチームの中国東方航空に出資して、スカイチーム内におけるマルチの契約よりも2社間戦略提携を優先させた。この提携は、東方航空の基地がある上海浦東空港の発着枠を欲しかったDLが持ちかけた提携であるといわれている。
・ワンワールドのアメリカン航空(AA)は今年3月、スカイチームの中国南方航空(CZ)に出資して戦略提携を結んだ。Gアライアンスのなかで唯一中国の航空会社をメンバーに保有していなかったワンワールドの盟主AAは、中国の巨大市場のアクセスを強化するためにCZとの提携を欲したとされる。
・スターアライアンスの全日空(NH)は16年5月、スカイチームのベトナム航空(VN)との出資及び業務提携を契約した。この他NHは、スターアライアンス以外の11社と提携している。
・ワンワールドの日本航空は、スカイチームのエールフランスとコードシェアを実施しているほか、ワンワールド以外の12社と提携している。
LCCアライアンス
LCCアライアンスは編成後1年ほどしか経過しておらず、提携内容が共同オンラインのウェブサイト設置など、いまだごく限られたものになっており、乗り継ぎサービスなど加盟LCC間の幅広い提携は実施されていない。
乗り継ぎサービス実施となれば、受託手荷物の預け元の航空会社(デリバリング・キャリア)から乗継先の受取側の航空会社(レシービング・キャリア)への仕分けと移動が必要になる。手荷物を一括取降し到着空港のバッゲージカルーセルまでまとめて移動させるのと異なり、乗継空港におけるグランドハンドリング作業が大幅に複雑化し、それだけコストが余計にかかることになる。低コスト運営最優先のLCCにとっては困難である。
また、マイレージなどの顧客褒賞制度の採用にも二の足を踏んでいるLCCが、コストがかかるGアライアンス並みのマルチ提携を導入していくのかは疑問である。
結局LCCアライアンスの目的は、Gアライアンスのような編成ではなくて、エアアジアやジェットスター、ライオンエアのアジア太平洋地域の大手LCCが、自国以外の域内各国に子会社群を設置して、この地域全体にネットワークを張っている運営形態に対抗しようとしているのかもしれない。エアアジアはマレーシアに加え、インドネシア、タイ、フィリピン、インド、日本、最近では中国河南省鄭州市にもLCC合弁子会社を設置する。ジェットスターは、豪州に加えシンガポール、ベトナム、日本に、ライオンエアはインドネシア、マレーシア、タイにそれぞれ合弁子会社を設置している。
Gアライアンスの制度疲労
さて、Gアライアンスの今後の見通しはどうなのか。
LCCの拡大、加盟航空会社数の増加、そして前述したビッグ3の誕生が、Gアライアンスの効果を減じているなか、LCCの拡大が、Gアライアンスに今後も大きな影響を与え続けるだろう。FSCのドル箱路線である北大西洋路線では、ノルウェー・エアシャトルやカナダのウエストジェットなどの長距離LCCが、米国-欧州間で最低片道100ドル以下の格安運賃で参入しシェアを拡大しつつある。そうなっていくと、Gアライアンスはますます色褪せて、その価値がさらに低下していくかもしれない。20年ほど前に誕生したGアライアンスの制度疲労が始まっているようだ。
(文=牛場春夫/航空経営研究所副所長)