元KAT-TUNの田中聖容疑者が逮捕されたとのニュースを聞き、驚いたことがある。前々から、渋谷でささやかれている噂のひとつに、「大麻臭」がするという話があった。渋谷といえば、10代の若者が集う「センター街」のイメージが強いだろう。一方、渋谷には“夜の顔”がある。渋谷はまさに眠らない街だ。夜の渋谷は熱いエネルギ−に溢れている。一晩に数十万円もするシャンパンを空けて豪遊する成功者もいれば、成功を夢見て渋谷をさまよう若者もいる。「混沌」という言葉がぴったりだ。もしかすると大麻に興じる者がいるかもしれないと思わせる雰囲気がある。
渋谷でさまざまな若者をみていると、つい色々な話を聞きたくなり、インタビューを試みてしまう。
バーや道端で飲んでいる20~30代の若者20人近くに話を聞いてみた。大麻を吸ったことがあるかとの質問に、「大学の時に吸ったことがある」「留学していた時に吸った」との答えが返ってくる。しかし、一様に「好奇心で1回だけ」「今はしていない」と付け加える。酔っている勢いもあり、いわゆるノリで答えた嘘かもしれない。しかし、なかには信憑性の高い体験談もあり、実際にどれほど若者の間で大麻が蔓延しているのか定かではない。
大麻使用歴があるという30歳の男性会社員の話が非常に興味深かった。
「大麻なんて良くないよ。“バッド”に入ったらもう最悪。すごく具合悪くなるんだよ。冷や汗が止まらなかったり、動悸がしたり、苦しくなったり……。もう例えようがないよ。若い時に遊び半分でやったけど、すぐにやめた」
大麻使用者の間では「バッドに入る」と表現するらしいが、大麻を吸うことで精神も落ち込み、急激に体調が悪くなる状態に陥ることがあるという。しかし、そう話す一方で、ハイになったときの楽しさも尋常ではないという。
「ハイになるときは、普通に聴こえてくる音楽がライブ会場にいるみたいに楽しかったり、当たり前のことでもメッチャ面白くて、腹がよじれるほどおかしかったりする。とにかくテンション上がるんだよ」
その彼は、バッドと呼ばれる状態になるのがつらく、すぐに使用をやめたため常習者にならずに済んだという。「今、もし誰かに誘われたら大麻を吸うか」と質問してみたが、「しないよ」ときっぱり答えた。
冒頭で触れたが、前々から渋谷の一角で「大麻のにおいがする」という噂を耳にした。この「大麻臭」だが、大麻の経験者にしかわからないという。「大麻臭」について話す若者に、どんなにおいかと尋ねたところ、「たとえば魚を焼いているにおいって、誰でも魚だってわかるでしょ。大麻を吸ったことがあれば、大麻のにおいはわかるよ。でも吸ったことがなければ『なんだこの異様なにおいは』って思うくらい」と答えが返ってきた。
また、クラブによく通うという28歳の男性会社員は「店の人がトイレで大麻のにおいするって言っていた。甘いにおいだって。だけど俺は一度もそんなにおいに気づいたことはない」と話す。
日本では、巻きタバコは一般的とはいえないだろう。一部では、田中容疑者の逮捕時に車内から吸引に使う巻き紙も見つかり、「自分でブレンドした巻きタバコを吸っている」と供述したとの報道もある。クラブやバーで知り合った人から巻きタバコを勧められた場合は、要注意だ。絶対に吸うべきではないだろう。
渋谷での「大麻臭」の噂は以前から聞いていたので、若者へランダムなインタビューを続けていれば、どこで売っているかといった情報がつかめるかと期待したが、そのような具体的な話は一切出てこなかった。街角に立つ、通称「キャッチ」にも声をかけてみたが、聞けたのは「大麻臭」の話くらいだった。暗黙のルールとして、具体的な情報は漏らされないのか。もしくは、「大麻臭」は単なる都市伝説なのか。しかし、田中容疑者が逮捕された場所は、まさにその「大麻臭」がすると噂されているエリアだった。
(文=吉澤恵理/薬剤師)