抗がん剤市場の成長が目覚ましい。2018年度の国内売上は約1兆2,000億円。1989年度の3,280億円から、平成の間に3.7倍に成長した。
この傾向は今後も続く。新薬開発が相次ぐからだ。今年5月にはスイスのノバルティスファーマ(ノ社)が開発した再発または難治性の白血病・悪性リンパ腫に対するCAR-T細胞療法キムリアが保険償還された。薬価は3,349万円だ。
抗がん剤開発の主戦場は造血器悪性腫瘍だ。腫瘍サンプルの採取が容易で、細胞分裂が速いため、抗がん剤が効きやすいからだ。現在、60の分子標的治療薬が存在するが、このうち24は造血器腫瘍を適応とする。肺がん12、乳がん7、悪性黒色腫7、腎細胞がん6を大きく引き離す。
造血器腫瘍を治療するのは血液内科医だ。製薬企業は彼らと良好な関係を構築したい。両者の関係はどうなっているだろうか。NPO法人医療ガバナンス研究所は、2016年度分の支払いについて、ワセダクロニクルと共同で製薬マネーデータベースを立ち上げ、無料公開した。現在、2017年度分のデータベースの整備を進めている。以下は、このデータベースを用いた分析だ。
日本血液学会の理事会は理事27人、幹事2人で構成される。2016年度、29人の幹部全員が製薬企業から講演料などを受け取っており、平均は431万円だった。もっとも多いのは理事長である赤司浩一・九州大学教授で1,093万2,026円だ。21社から依頼され、74件の講演などをこなしていた。以下、次に続く。
・豊嶋崇徳・北海道大学教授:891万円
・神田善伸・自治医科大学教授:866万円
・松村到・近畿大学教授:782万円
・小松則夫・順天堂大学教授:766万円
・飯田真介・名古屋市立大学教授:753万円
興味深いのは、彼らに金を支払う製薬企業だ。29人中、9人がノ社からもっとも金を受け取っていた。言うまでもないが、ノ社が血液内科医にカネを払うのは、キムリアを抱えるからだ。キムリアの販売方法は特殊だ。処方できる施設は限定される。中核となるのは、2015年7月から2017年12月にかけて実施された国際共同治験に参加した九州大学、北海道大学、国立がん研究センターだ。ノ社が売上を増やすには、このような施設の責任者を取り込めばいい。