製薬企業は名大グループを熱心に支援する。講演会や臨床研究支援はもちろんのこと、退職後の面倒もみる。2008年に名古屋第一赤十字病院を退職した小寺氏の再就職先は、愛知医科大学に新設された造血細胞移植振興寄附講座だった。寄付元は協和キリンなどだ。
2013年には関連病院の部長が「不祥事が露顕し、退職に追い込まれた(名大血液内科医局員)」。名大グループの重鎮は、この医師を「創薬開発、治験等に関する業績は申し分のないもの」があるため、「彼の再出発のために」製薬企業に寄附講座を設置するように依頼するメールを送った。製薬企業社員から、筆者のところにも転送されてきた。さすがに、この件は実現しなかったが、現在、依頼した重鎮の医師は愛知県内の医科大学に設置された寄附講座の教授を務める。資金を提供するのは、これも協和キリンだ。
製薬マネーデータベース構築の必要性
我々は、製薬マネーの調査を進めてきた。さまざまな診療科を調べたが、血液内科は製薬企業との距離が極めて近い診療科といっていい。
このような診療科の医師がキムリアを処方する。キムリアは処方されれば、結果とは無関係にノ社と病院にカネが入る。効果が期待できない患者に投与することは、血税をドブに捨てるに等しいが、医師の懐は痛まず、製薬企業は巨大な利益をあげる。一部の病院は処方を増やすため、他の病院で断られた患者を引き受け、キムリアを処方するかもしれない。「一縷の望みにかけて最善を尽くした」と言えば、体裁は取り繕えるからだ。
このような状況はキムリアに限った話ではない。血液内科が主導してきた抗がん剤治療や骨髄移植の開発も、似たような状況の中で推し進められてきた。
筆者は、このような状況はある意味で仕方ないと思っている。血液内科は先端医療をリードし、先端医療は人体実験の側面があるからだ。ただ、だからこそ節度と情報開示が必要だ。透明性が担保されなければ、社会から信頼されない。日本血液学会は、血液内科に関する部分だけでいいから、独自に製薬マネーデータベースを構築し、公開したらどうだろう。社会の見方が変わるはずだ。
(文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)