では、両者の関係はどうなっているだろう。もちろん親密だ。キムリアの日本での治験の責任者を務めた豊嶋・北海道大学教授は、2016年度にノ社から103万5,742円を受け取っていた。キムリアの臨床開発には、医師の協力が欠かせない。協力した医師に報酬を払うのは当然だ。ただ、カネを払ってくれる人に「迎合」してしまうのは人間の常。市販後に処方できる施設を、このような施設に限定すれば、患者選択にバイアスが働いても不思議ではない。少なくとも、世間の理解は得にくい。キムリアのような高額医薬品の場合、製薬企業は主治医のさじ加減ひとつで3,349万円の売上を確保する。従来の処方以上に、透明性が高い情報開示システムの構築が必要だ。
名古屋大グループ
血液内科の領域には、高額な医薬品が多数存在する。このようなやり方はノ社に限った話ではない。2016年度、製薬企業が血液内科医に支払った講演料などの総額は7億8,703万円で、多い順にセルジーン9,646万円、ノ社8,548万円、ブリストル・マイヤーズスクイブ7,441万円となる。
製薬企業は、あの手この手で血液内科医に接近する。特に力を入れるのは診療ガイドライン委員へのアプローチだ。日本血液学会には造血器悪性腫瘍診療ガイドライン委員会という、のべ60人の医師によって構成される組織が存在する。この組織を仕切るのが、名古屋大学を中心とした名古屋グループだ。60の委員ポストのうち、14のポストを12人の名古屋グループが占める。2位の東大グループの6人、7ポストを大きく引き離す。
名古屋大グループ12人が2016年度に受け取った製薬マネーの平均は234万円。東大グループの平均213万円を上回る。
なぜ、名大が血液内科を仕切るのか。名大血液内科(元第一内科)は、そもそも伝統あるグループだからだ。初代教授の勝沼精蔵氏は、1937年に創立された日本血液学会の初代会長を務めた。日本最大の白血病研究グループ「成人白血病治療共同研究機構(JALSG)」は1987年に大野竜三教授(1964年名大卒)が立ち上げたものだし、我が国の骨髄移植をリードしてきたのも名大だ。日本造血細胞移植学会の事務局は、現在も名大内にあり、公益財団法人日本骨髄バンクの理事長を務めるのは、小寺良尚医師(1967年名大卒)だ。