2015年12月にストレスチェック制度が始まり、50名以上の労働者がいる事業所では、心の健康チェックが義務化された。これは厚生労働省が進める「労働者の心の健康の保持増進のための指針(06年3月策定)」の「4つのケア」の中にある「セルフケア」を強化する施策だ。今まで個人任せだった心の異変の気づきに、企業も積極的にかかわらなければならなくなった。
ストレスを数値化するだけでは、不調の予防は発見もできない。それ以前に、職場での人と人のかかわり方が重要なことに変わりはない。筆者は、現場の管理監督者と会うなかで、セルフケアの先にある「ラインによるケア」があまり機能してない点が気になっている。ラインによるケアには、以下のようなものがある。
・職場環境等の把握と改善
・労働者からの相談対応(積極的傾聴、情報提供、専門部署や機関へのリファーや受診の促し)
・職場復帰支援
これらのラインケアがうまく機能しない理由は主に2つある。
(1)ケアする人とされる人の関係性がそもそも問題を抱えている
近年、労働者の自殺は減少傾向にある。03年には9209人だったが、15年には6782人にまで減った。しかし、労働者がストレスを感じる原因のトップは、変わらず「職場の人間関係」(12年は41.3%)だ。さらに、職場内のいじめ・嫌がらせに関する民事上の紛争は増加している(06年2万2153件→15年6万6566件)。精神障害等による労災認定件数も増え続けている(03年108件→15年472件)。
この数値からは労働者をケアすべきラインの中に、ストレスの原因がありうると読み取ることができる。ストレスの原因が、ストレスのケアの役割を担おうという矛盾があるように見える。(データ:厚生労働省『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~平成27年度版』)
(2)ケアしようとする人の聴き取り能力が不十分
ラインスタッフが悩みを聴こうとしても、うまくできないという声も多い。日常的に繰り広げられる会話の中から、業務的な会話と悩みにつながる会話を切り分けて聴き取るのは難しいという声もよく耳にする。しかし、聴き取りがうまくできることで、メンタル不調の予防と早期発見が可能となるのだ。