「人手不足」が社会的な問題となっている。これは、当然ながら企業の経営にも影響を及ぼす問題だ。
7月3日に日本商工会議所が発表した「人手不足等への対応に関する調査」では、「人手が不足している」という回答が最も多かった業種は宿泊・飲食業だった。次いで、運輸業、介護・看護、建設業などが続く。
「数年後(3年程度)の人員の充足感の見通し」については、「現在と同程度の不足感が続く」との回答が52%で最多。さらに、「不足感が増す」との回答も39.8%で、今後はさらに深刻化しそうだ。
東京商工リサーチによると、今年7月の人手不足関連倒産は24件(前年同月は28件)で、3カ月ぶりに前年同月を下回った。内訳は、代表者死亡や病気入院などによる「後継者難」型が16件(同27件)、「求人難」型が7件(同1件)、「従業員退職」型が1件(同0件)だった。
「求人難」型の7件というのは、今年最多だ。1~7月では23件(同10件)と前年同期比2.3倍で推移している。ちなみに、今年上半期(1~6月)の人手不足関連倒産全体の件数は162件。前年同期(161件)とほぼ同じ数字だ。これについて、東京商工リサーチ情報本部の関雅史氏は以下のような見方を示す。
「現在、企業倒産は好景気で沸いた1989~91年のバブル期並みの少ない件数で推移しています。このため、人手不足が話題になるなかで、倒産企業のなかから抽出される“人手不足関連倒産”も表面化しにくくなっているとみられます。
ただし、倒産件数が低水準で推移するなかで、倒産ではないですが、余裕のあるうちに事業を停止する『休廃業・解散』の数は、2016年に、調査開始以来最多を記録しました。この要因には、後継者難に加えて人手不足も『事業意欲の喪失』に影響していると推測され、今後の影響が懸念されます」
東京商工リサーチによると、企業の倒産件数は07年に1万4091件だったが、16年には8446件(前年比4.1%減)になっている。8年連続で減少しており、8500件を下回ったのは26年ぶりだ。
一方、16年に休廃業・解散した企業数は2万9583件(前年比8.2%増)で、過去最多を更新している。その数は、倒産件数の約3.5倍だ。
産業別に見ると、休廃業・解散がもっとも多いのは、飲食業や宿泊業、非営利的団体などを含むサービス業他の7949件(構成比26.9%)、次いで建設業の7527件(同25.4%)、小売業の4196件(同14.2%)となっている。サービス業他と建設業で5割を占める。
「今後、景気が上向いてくれば人の流動性が高まるため、結果的にサービス業などでは人手不足がより顕在化する可能性もあるでしょう」(関氏)
また、休廃業・解散した企業の代表者の年齢別では、60代が最多の34.7%を占めており、70代の33.6%、80代以上の13.9%が続く。60代以上が占める82.3%という数字は、00年以降でもっとも高い。80代以上の比率(13.9%)も同様だ。
休廃業・解散の背景に高齢化と後継者不足があるのは明らかで、人手不足の問題はこれからが本番といえそうだ。
(文=編集部)
●取材協力/「東京商工リサーチ」