日本で経営者などがそれぞれの地場で参加する団体としては、ロータリークラブとライオンズクラブが知られている。両クラブとも、自ら標榜しているのは「社会奉仕団体」であるが、構成員の組み合わせから地域でのハイエンドな異業種経営者交流会という性格もある。
一方で両クラブほどの知名度や規模はなくても、ビジネスパーソンの異業種交流会や名刺交換会などが各地で活発に開催されている。それらの多くが各地域で散発的に開催されるもので、日本全国を縦断して組織化されたものは上記の両クラブ以外には聞こえてこなかった。
そんななか、両クラブの後を追って急速に拡大しているのが、BNIという異業種交流組織だ。
BNI VORTEXチャプターの堀岡桂子プレジデントに、BNIのユニークな活動をうかがった。
朝7時から毎週集まる
――定例会にビジターとして参加させてもらい、皆さんの熱気に圧倒されました。
堀岡桂子氏(以下、堀岡) 私どものチャプターでは、毎週木曜日の朝7時から9時まで、原則全員参加の定例会を開いています。数名の役員やビジターホストと呼ばれる、お客様をサポートする担当者は定例会の前から準備を行い、アフターミーティングという後会(あとかい)にも参加をしています。
――定例会の進め方がとても組織立っていました。そもそも、ビジターにはお世話役を付けてくれて、隣に座って説明してくれたり、皆さんを紹介してくれてとても心強く感じました。
堀岡 ビジターの方は多いときは15名、少なくとも5名ほどはいらっしゃいます。大抵メンバーの紹介でおいでいただくのですが、おひとりずつに担当する「ご案内係」を付けます。
――会員の方は何人いらっしゃるのですか。
堀岡 私どものチャプターは現在51名です。BNIは日本全国で246のチャプターがあり、直近の総会員数は8000人を超えています。平均すると、各チャプターに34名のメンバーがいることになります。
――定例会の進め方がとてもシステマティックでした。他の異業種交流会では名刺交換パーティ型が主流なのとは大きく異なっていました。
堀岡 BNIの活動は「リファーラル・マーケティング」を中心に展開しています。リファーラルとは、信頼をもとに人脈やビジネスチャンスを紹介し合うことです。メンバー同士だけでなく、外部の方に他のメンバーやそのビジネスを紹介するのです。定例会では、その前の1週間に何件のリファーラルを行ったか、そして主なリファーラルの例を参加者全員が報告します。
――他の会員のことをすべて紹介しようとするのも大変ですね。
堀岡 メンバーはBNIが作成した「名刺ファイル」を持ち歩いています。このファイルには、当チャプターの自分以外の50名の名刺が数枚ずつ入っています。各メンバーは、他のメンバーの名刺を配り、紹介して説明するわけです。個別のミーティングをセットする場合もあります。
――私がお邪魔した定例会は朝の7時から9時までの120分間でしたが、流れるような運営でした。分刻みどころか、秒刻みの進行で、メンバーの皆さんがそれにしっかり付いて行っている。
堀岡 定例会の進行についてはしっかりフォーマット、進行手順がありまして、発表時間のリアルタイム表示もしています。持ち時間が過ぎると、ベルが鳴って終了しなければなりません。
――それから、「自分がほしいリファーラル」、つまりどんな点を特に紹介してほしいかを発表なさっていましたね。ひとりの発表時間が35秒しかなく、それにもかかわらず皆さんテキパキと発表なさっているのに感心しました。
堀岡 「プレゼンテーション・スキル」のトレーニング・プログラムがあります。他に「チャプター・ディベロップメント(グループ拡大の方法)」や、「ネットワーキング・スキル」などさまざまなトレーニングに参加することができます。新メンバーや役員に必須のトレーニングもあり、受講状況の有無についてはメンバーごとに評価される仕組みです。
リファーラル・マーケティングが機能している
――リファーラルというのは、実際には有効に機能しているのですか。
堀岡 私どものチャプターだけでなく、日本全体のBNIとして統計を取っているのですが、この1年間でリファーラルによってBNIのメンバーにもたらされたビジネスの総数は約78万件、総額は約579億円に上ると報告されています。
――ふーん、貴チャプターではそれぞれのメンバーの方が毎週1件以上のリファーラルを報告なさっていましたね。
堀岡 毎週の定例会では平均して合計100件のリファーラルが出席メンバーから報告されています。
――メンバーおひとりが年間で平均100件のリファーラルをもらっているという勘定になります。
堀岡 BNIの会費は初年度が登録費を含んで12万円(税別)、次年度から10万円(税別)となりますので、他のメンバーを通しての広告費、マーケティング費用と考えるととても効率がよいと思います。皆さんの定例会への参加率の高さ、熱心度を支えている状況が生まれています。BNIについて、メンバーの方は自分のビジネス活動、仕事だと考えています。
――BNIの活動を通じて大きなビジネスが結実した例は、こちらのチャプターではどんなものがありますか。
堀岡 定例会にビジターとしていらした会社の方から、年商800万円相当の継続的な注文をいただいた方が現メンバーにいます。また経営コンサルティングを展開しているメンバーがリファーラルでとある企業を紹介していただいた。するとその企業が商流の上流にいて、その商圏全体に仕事をいただけるとようになった事例などがあります。
2006年に始まり、急速に拡大している
――そもそも、BNIという組織で皆さんは何をなさり、何を目指して集まっていらっしゃるのですか。
堀岡 BNIを支えているのは、「GIVERS GAIN(ギバーズゲイン)」という理念です。これは、他の人のために行動すれば、その恩恵は巡り巡って自分に返って来る、という意味です。リファーラルを通じて、メンバー同士がお互いのビジネスの機会をつくる、結果として売上を伸ばす手助けをすることでメンバー全員が良い結果を得ることができるのです。
――どういう経緯で、アメリカでBNIは始まったのですか。
堀岡 BNIの創業者兼会長であるアイヴァン・マイズナー博士がまだ28歳だった1985年にさかのぼります。彼は当時アメリカ西海岸でビジネスコンサルタントのオフィスを構えていました。事業は順調だと思われていたのですが、突然大口顧客から契約を打ち切られてしまい苦境に立たされます。そこで売上を上げるために地元の事業者12名ほどを集めてリファーラル・マーケティングをスタートしました。それがきっかけです。当時は今日のような世界中で数十万人が集まるグローバル組織になるとは予想すらしていなかったようです。
現在世界73カ国で22万人以上の経営者や事業主がメンバーになっています。世界最大級のビジネスミーティング組織となりました。
――日本では古くから活動しているのですか。
堀岡 06年に日本での活動が始まりました。日本ビー・エヌ・アイ株式会社の大野真徳代表取締役が、イギリスから帰国して日本で展開を始めたのです。大野代表はロンドンでBNIの会員だったそうです。日本では、ロータリークラブとライオンズクラブの会員数がそれぞれ約7万人といわれていますが、BNIもすでに8000名を超えるメンバーを擁しています。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
※以下、次回
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