宅配便最大手のヤマト運輸を傘下にもつヤマトホールディングス(HD)と日本航空(JAL)は宅配便の国内物流網の強化に向け、2024年4月、貨物専用機の運航を開始する。ヤマトグループが機体をリースして導入し、JALグループが運航を担当する。
エアバスA321ceoP2F型3機をヤマトグループがリースで導入する。ヤマトの投資額は非公表。中古の旅客機を貨物専用機に改修した機体だ。JALグループは運航委託費を受け取り、グループの格安航空会社(LCC)ジェットスター・ジャパン(千葉県成田市)が実際に運航する。1機当たりの最大積載量は28トン。10トントラック5~6台分の荷物を一度に輸送できる。
首都圏(昼間は成田、夜間は羽田)から北海道(新千歳)、九州(北九州)、沖縄(那覇)への長距離輸送が対象。従来は大型トラックで運び、現地で小型トラックなどに荷物を分けて乗せ、配送してきた。
トラック運転手の時間外労働を減らす法律が適用される「物流の2024年問題」に対応した動きだ。ドライバー不足や劣悪な労働環境が問題となっている陸運業界では、24年4月からドライバーの時間外労働の上限が年960時間(月80時間)に制限される。長距離トラックの輸送力をどうやって確保するかという問題の解決が急務で、代替手段の検討も進められてきた。
ドライバーの1人当たりの労働時間が減るため、現行の運送量を維持するには多くの新規のドライバーを雇用する必要が出ていた。だが、そうなれば人件費が増加するし、人手不足が深刻な長距離輸送を担うトラックドライバーをおいそれとは増やせないという悩みを抱えていた。
解決策として、大雨や大雪、地震などによる物流網の寸断のリスクに備え、大量の荷物を短時間で運ぶことができる航空機の導入を決めた。長距離トラックでの輸送を航空機に肩代わりさせることで、ドライバーの労働時間を減らし、輸送力を維持することもできる。一石二鳥の策というわけだ。
JALが貨物専用機を運航するのは経営破綻した2010年以来初
新型コロナウイルス感染拡大の影響で旅客需要は激減したが、航空貨物の需要は逆に増加した。このため貨物専用機を保有しているANAホールディングス(HD)は旅客の落ち込みを、十分とはいえないまでも補うことができている。だが、JALは2010年の経営破綻以降、貨物専用機を持っていない。旅客機の床下貨物スペースの利用にとどまるため、旺盛な貨物の需要を取り込めずにいた。
国内線では中・長期的な人口減少の影響も懸念され、貨物供給力の向上が課題となっていた。JALは収入の変動が大きい貨物専用機を自社で導入することには消極的だが、運航受託というかたちを取ることでリスクを抑えつつ貨物輸送の需要を取り込む作戦を選択した。
JALの岩越宏雄執行役員は1月21日の会見で、10年の経営破綻後に撤退した貨物専用機事業について、「景気変動をかなり受けるビジネスでボラティリティ(価格の変動)が非常に高い」と指摘した。「今回ヤマトと協業したように、確実な需要が見込めるような良いパートナーと提携していく。しかし、自社で貨物専用機を保有する計画はない」と言明した。
長距離貨物輸送事業について、「まず国内線から始める。今後の需要動向次第では近距離アジア路線を視野に入れたい」(岩越氏)とした。運航を担うジェットスター・ジャパンはエアバスの小型機320で関西空港発の近距離の東南アジア路線を持つ。
新型コロナ禍による海外旅行の需要回復が鈍い。ANAホールディングス(HD)とJALの22年3月期連結決算は最終赤字が続く。ANAHD(日本会計基準)の売上高は前期比45%増の1兆600億円、最終損益は1000億円の赤字の見込み。JAL(国際会計基準)の売上高にあたる売上収益は59%増の7660億円、最終損益は1460億円の赤字の見通しだ。
ANAHDはコロナ後を見据え、航空貨物のシェアを高める方針だ。中長期的には米FedEx(フェデックス)やUPS、アラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ航空などに次ぐ上位5位以内に入ることを目指す。
貨物専用機を保有するANAHDと貨物専用機を持たないJAL。航空貨物の争奪戦でも火花を散らしている。