これについて、「買収でローソンの業績が拡大する。商品力やブランド力も向上する」(銀行関係者)、「ローソンの成長戦略のバリエーションが大きく広がった」(証券関係者)など、株式市場関係者の間では好意的な見方が大半だ。
だが、流通業界内の見方は「前途洋々説」と「経営独立性喪失説」の真っ二つに分かれている。それは「新浪剛史氏(現会長)が今年5月に社長を退任した後のローソンは、親会社の三菱商事の経営関与が強まり、新浪氏に後事を託された玉塚元一社長の経営手腕がいまだ不明」(業界関係者)なところから来ているといってもよい。
成城石井買収の是非を探る前に、関係者の話から同社買収劇の舞台裏を読み解いてみたい。
●三菱商事が裏で仕切った買収劇
投資ファンド関係者の間で成城石井の売却話が囁かれるようになったのは、今年の春先からだ。投資ファンド関係者の話によると、「ローソン、三越伊勢丹ホールディングス、イオン、セブン&アイ・ホールディングス、エイチ・ツー・オーリテイリングなど、業界大手10社近くが買収意欲を示した」という。
成城石井の高い収益力は、それだけ魅力的なのだといえる。同社は首都圏、中部、近畿の都市部に約120店を展開。2013年12月期の売上高は544億円、営業利益は33億円で5期連続の増収増益。営業利益率は6.1%に上る。今年8月までの1年間も売上高は前年比10%増の601億円、営業利益は同46%増の48億円、営業利益率は8.0%に上った。スーパー業界は営業利益率が3~4%だと好業績とされるが、成城石井の営業利益率はそれをはるかにしのいでいる。店舗数や売上規模こそ中小スーパーレベルだが、収益力はトップクラスであり、業界大手にとっては舌なめずりしたくなるほど「おいしい魚」なのだ。
このため、今年5月初めに同社株式を保有する三菱商事系の投資ファンドの丸の内キャピタルが株式売却の方針を明らかにすると、買収に向けた駆け引きが水面下で繰り広げられた。この時、丸の内キャピタルが非公式に打診した売却額は「最低でも650億円」(投資ファンド関係者)といわれている。丸の内キャピタルの同社買収額が420億円程度と推定されており、「投資ファンドの出口戦略とはいえ、かなりえげつない」と、業界関係者たちは憤慨した。案の定、この打診段階で、それまで意欲を示していた買収希望社の大半が売却額の高さに興味をなくし、事前交渉に入ったのはローソン、三越伊勢丹、イオンの3社だけだった。